―凜said―

龍樹と水の掛け合いしながら、
ふとあたしは思った。

あたし、龍樹に振り回されてばっかりだなぁ。
でも、
その軸にちゃんと龍樹がいてくれるから、
どこかに飛ばされることもなくまっすぐ龍樹の元へと帰ってこれる。


どんなに頭にきたって、
結局許しちゃう。
あの笑顔にはかなわない気がする。


『機嫌なおったか?』
そうゆうずるすぎる優しさにも勝てない。
なんか、そういうところまで夏樹みたいで嫌になるくらいだ。

『んー、かき氷買って?』
『てめぇ...』
でも、やっぱり龍樹は夏樹とは違う。


龍樹にかき氷を買ってもらって、
すっかり上機嫌に戻ったあたし。


そうだ!!こんな小さいこと気にしてるあたしが小さい!!



ホテルに行って、
夕食を済ませたあたし達。
夕食を食べたレストランには、テラスがあった。

そこであたしと龍樹は、のんびりしてた。

『今日で随分日焼けしたなぁー』
体中がヒリヒリする〜...!
すると龍樹はあたしの手をとって、
『お前は白すぎ。白玉団子か』
ってほざきやがった。
なんだよ、一瞬ちょっとドキって...


『...はぁ!?なんで白玉団子!?せめてそこは雪見だいふくとかでしょ!?』
白玉団子とか、味ねぇじゃん!!
ただの白玉じゃん!?
『あ?白玉団子だって白いだろ』
なめてやがる...
『はぁ!?大体龍樹に白いとか言われたくないし!!あんたのがよっぽど白玉...痛っ?!』
八神があたしの頭をコツきやがった。
いい度胸じゃねぇか八神!!


『飲みもん買ってくる。白玉団子はあったかいお汁粉でも飲むか?』
ニヤニヤしながらこっちを振り返った龍樹を、まじで一回殴りたくなった。

『冷たいミルクティーがいーい!!』
あたしの悲痛な叫びは、
果たして笑いのツボがイカレてる八神に届いたのだろうか...!?



龍樹が居なくなって、
静かになったせいで余計に、
目の前に広がる海の波のさざめきが耳によく響いた。


扉が開く音が聞こえて振り返ると、
龍樹じゃなくて胡桃だった。

『龍樹と仲良さそうだね?』
胡桃はニコニコしながら近づいてきた。
でも、目は笑ってなかった。

『彼女かぁ。羨ましぃなぁ』
胡桃は遠くを見つめた。
そして...
『どぉしてあたしじゃないんだろ?』
と呟いた。

『今まで、どんな女もあたしが潰してきたのに。凜ちゃんは、潰れてくれなさそう』


...は?
何言ってんのこの子?
『今ならまだ間に合うよ?凜ちゃんもお友達も、なんにもしないでいてあげる』
さっきから何を...






『龍樹と別れてよ』






その胡桃の表情があまりにも冷たくて、
あたしは真夏なのに、震えた。


『あたし、龍樹のことずっと支えてきたの。中学の頃からね?だから、どんな龍樹も全部見てきた。』
胡桃から、いつもの笑顔が消えていて、
天使が悪魔に見えた。


『龍樹のファーストキスの相手、あたしだよ?初めてヤったのもあ・た・し』
胡桃は、自慢げにあたしを見た。


『確かに凜ちゃんすごく可愛い』
胡桃はあたしを上から下までジロジロみた。


『でも、あたしが龍樹と積み上げてきた時間は貴女とは比べ物にならないくらい、多いの』
胡桃はさらに言葉を続けた。


『凜ちゃん、悔やんでも悔やみきれないよねぇ?中学生の時から龍樹と知り合ってればなぁって。』
『そんなこと...』



『中学時代、無かった事にして1からやり直したいでしょ?』



胡桃の言ったその言葉に、
停止していた脳がフル回転した。


つまりそれは、
あたしの中学時代を侮辱していて。
あたしの中学時代を侮辱しているってことは、
夏樹のことも侮辱してて。


『聞いたよ?中学のころイケメン彼氏に逃げられたんだって?』
胡桃はニヤニヤしながら言った。







は...
なんでそれを、胡桃が知ってるの?







『所詮逃げられちゃうような関係だったんでしょー?龍樹にも、逃げらる前にあたしに譲ってよぉ』



逃げられちゃうような...関係?
夏樹は...

夏樹...は...



『龍樹にも逃げられちゃうんじゃない?だったら私に譲ってよ』
胡桃は勝ち誇ったように、
あたしを嘲笑った。



『....ッ....』
言葉が出なかった。
ずっと目を背けていた事だった....。



あたしは夏樹に、逃げられたの?

龍樹も、あたしの前から居なくなっちゃうのかな....?



ガチャ
そこに、龍樹が珈琲とミルクティーを持って帰ってきた。


『なんだよ、くる....凜?』

あたしは、
龍樹の顔を見て、夏樹の顔が浮かんで
思わず目を背けてその場を飛び出した。