―龍樹said―

あー...イライラする。
なんだよコレ、病気か?

帰り支度をしてると、
怜雄が教室に入ってきた。

『何やってんの、龍樹』
怜雄が真面目な顔して俺を見てる。

『...あ?』
どういう意味だ。
帰り支度してるだけじゃねぇかよ、
馬鹿かこいつは。

『だぁからさぁ。凜ちゃんのこと』

...は?
凜?余計分けわかんねぇし。
凜がなんだっつーんだよ。
確かにさっきやばいところ見られたけどさ...

『龍樹、素直にならないとまた後悔するぞ。』

また...って、なんだよ。

『すべての女が、お前の母さんと一緒にするなよ。凜ちゃんは絶対違うだろ。』

俺の母親...。
自分が不倫して離婚したあげく、
俺なんか産まなきゃ良かったと毎日喚き散らす。
風俗街へと転がり込んで、
酒と男に溺れる毎日。
それでも、俺はそんな母さんの金で中学校に通ってた。

綺麗な人だった。
俺の顔は、母さん譲りだそうだ。
すごく優しくて、聡明な人だった。
ハズだった...だから、
そんな母さんが不倫なんて信じられなかった。
きっと、親父の方が大人だったんだ。
冷静だった。
でも、俺は不倫現場をこの目で見た人だから。
その光景が、今も頭から離れない。



そして、中2の冬。
母さんは死んだ。
酒に酔った男と車に乗って、事故った。

葬儀には、オヤジも兄貴もこなかった。
来る筈ないよな...

そっからの俺の記憶はない。



ただ、毎日抱く女の顔と声は、
いつかの不倫していた母さんのそれと同じだった。
自分でも、なにをやっているのかわからなかった。

ただ、我武者羅だったんだ。





『龍樹は、凜ちゃんと出会って変わったよ。また、昔みたいに笑うようになった。』
怜雄は昔を思い出すみたいに、
遠くを眺めていた。

『女遊びもやめたろ?』

確かにそうだった。
凜達といるのが、あまりにも楽しくて、
俺はいつからか、
女を抱くことはしなくなっていた。


『だから、何だよ』
俺はぶっきら棒に返した。
『お前さ、凜ちゃんに、ヤリたいかって聞いたって言ってたろ?』

怜雄には少し話した。
あの日のことを。

『お前さ、それ嬉しかったんだろ。』
怜雄はまっすぐ俺を見る。


『...お前さ、本当嫌な奴だな。』
図星だった。
昔からこいつには隠し事できなくて。

あぁ聞いて、あぁゆう風に答えたのは
凜が初めてだった。
普通の女なら、聞くどころか、
放っておいても寄ってきたぐらいだ。


こいつが、ほかの女と違くてよかった。
それが本心だった。

『初めてあいつに会った時にさ。あいつ、俺の顔見た時、今までの女と全然違う顔してたんだよ。』

泣きそう...だった。
てか、たまに俺のことみて泣きそうになってるし...

けど、あの時あいつが
俺に向かってなんて言ったのかは、わかんねぇんだけど...


『凜ちゃん、さっきすれ違ったばっかだよ。あー、とね。』
怜雄のイタズラ好きな感じがもろに顔に出る。

『2組の冬月が、凜ちゃんのこと気に入ったって、友達みんなで騒いで凜ちゃんの後おっかけー...』

俺は怜雄の話を最後まで聞く前に、
走り出していた。


『まぁーったくもう、本当龍樹は馬鹿だなぁ。さぁて、俺も帰ろっかな』


夕日は半分沈みかけていて、
外はだんだんと暗くなり始めていた。