クルッと振り向いた海梨は首を傾げて見せる。


「…忘れちゃった‥」





昔は‥

昔はこんなツライ顔しなかったのに。


笑顔しか思い出せないのに。



『海梨…』

「うそ」

少し微笑んだけど、泣くのかと思った。


「慶士はモテるからさ、もっと遊んだ方が楽しいんじゃないかなって、最近思う!」


『何言って‥』


「前にさ、聞いたじゃん?何であたしと付き合ったのかって」

『…』


「覚えてないって、言ったよね」





高三の終わり。
卒業式も間近に迎えた放課後。


"なんで慶士はあたしと付き合ったの?"

突然の質問に戸惑いながら照れながら

"覚えてない"


そう答えた。



付き合ったのは中一になってすぐ。

正直、好きだったのかも分からなくて‥
なぜ付き合ったのかと聞かれると分からない。自分でも。


第一、中一の時の記憶なんてみんなハッキリしてるもの?