「祐、お前また補習?欠点取りすぎだろ。」
栢山祐に西條航が言う。
栢山と西條は幼なじみであり、栢山にとって西條は兄みたいな存在だ。
「はぁああ。カバ(数学教師:川幡)の授業放課後までするとか無理だあぁあ。」
栢山の愚痴など通るわけもなく、15点のテストを1から復習し直すこととなる…。
「俺は奈寿菜(彼女)と帰るから、お先。」
西條の彼女の奈寿菜こと、橘奈寿菜は西條のことがずっと好きで二年半の片思いの末ようやく付き合えたのだ。
〈いいなぁ、彼女。〉
そんなことを思いながら栢山は西條の後ろ姿を見送ったのだった。
『補習室』と書かれた部屋にはいつものメンバーがいた。
40人×7クラスだから、補習の人数は大体50人前後。
栢山は、空いていた後ろの方の席に座る。
一応、放課後までにしておいたテストの復習ノートも出しておく。
ふうっと栢山が溜め息をつくと
「あっ、あの、ここ空いてますか?」
と隣のクラスの青島が聞いた。
「…友達とか、待ってるならいいんだけど……。」
控えめな性格の青島に栢山はにっこり笑って
「空いてるよ、どうぞ。」
と自分の横の椅子をぽんと叩いた。
「栢山くん、ありがとう。」
と青島は栢山に嬉しそうな顔で言った。
「青島さんって僕の中で優等生なイメージなんだけど、青島さんも補習したりするんだね?」
栢山はさりげなく失礼なことを青島に聞いた。
「えぇ…?私が補習することもあるよ?栢山くんは、補習はよくあるの?」
青島の質問に答えにくそうに苦い顔をする栢山。
そんな栢山に気づいたのか、青島は
「そういうこと聞かれたくないよね、ごめんね。」
と謝った。
「お前等、席付けよー。」
カバの声が補習室に響きわたった。