「家を出たほうがいいって、俺は匿名で繭子にコンタクトを取った。繭子は最初は怪しんでたけど、何とか説得して繭子をあの家から離すことに成功したんだ」
「…よかった」
「…この高校を選んだのも、繭子がいたからだった。入試の日、俺はこっそりと保健室に繭子に初めて会いに行った」
繭子は、「待ってた」って言ったんだ、と葵くんは少し切なげにつぶやいた。
先生は、家を得出ろと電話で伝えたのが葵くんだって気づいたんだって。
それは、葵くんと同じように先生も葵くんに会いに行っていたことがあったからだった。
それを機に、葵くんは先生と話すようになって、いつの間にか、本当の姉弟のようになっていった。
二人があっていることは、親にはもちろん秘密だ。
だからこそ、学校以外ではできるだけ接触しないようにしているんだって。
「…以上。俺と繭子のなれそめ」
「ありがとう…。話してくれて」
「あんま、重くとらえんなよ。俺、もう自分が不幸だとか思ってねぇから」
葵くんは私の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でた。
「今は、俺…幸せだから」
「葵くん…」
幸せだと、笑う葵くんの言葉ほど、強い言葉はないだろう。