「え?お前田坂さん好きなの!?」と言われた。
確かに俺の目線の先には教室に入ってくる田坂がいた。違う。あの人はどこだ、と教室じゅうを捜し回った。だが、あの女子はいなかった。



「違うよ。田坂じゃない。名前とか、そんなん全然わかんないんだ」

「なんだよそれ」田村は気が抜けたように言う。
「ここだけの話、俺田坂好きなんだよね。同じクラスになってラッキーだ」

ああそうなのか。田坂も四組なのか。っておい。突然の彼のカミングアウトに反応することはできず、沈黙が続いて田村はぴょんぴょん跳ねながらどこかへ逃げた。



一体あの人は誰なんだろうか。名前も、クラスも、ましてや好きな人面魚すら知らない。なんと言えば良いのかわからない。地に足が着いていないような、今なら50メートル5秒で走れるような、そんな感覚になってしまった。一目惚れと思うには恥ずかしすぎた。