「成美ちゃんと付き合っているのに、こんなことしても意味ないんだよね」
笠原くんは、あたしをいつも避けている。
ひどく迷惑そうな顔をして、笑顔なんて数える程度しか見せてくれない。
でも、成美ちゃんに対してはいつも笑顔だ。
優しい、温かい笑顔。
その表情を見て、成美ちゃんを本当に好きなんだって思ったんだ。
そんな笠原くんが、あたしに振り向いてくれるはずがない。
「あ! あたし、ちょっとトイレ行って来る」
しんみりとした重苦しい空気を突き破るように、あたしは明るくそう言うと教室を出た。
教室を出る直前に通る、廊下側の笠原くんの席。
翠川くんと話す笠原くんの声が聞こえた。
あたしには向けられない、明るい声。