いつもなら「よかったな」って言ってくれるのに。

無言のまま、なにか考えるような顔をしている翠川くんに、あたしはさらに言葉を続ける。



「連絡くるかな。夏休み、笠原くんと一緒にどこか行けるといいなぁ」

「……うん……、そうだな」



浮かない顔で、翠川くんは閉められた窓の外に広がる景色を眺めた。

雨の音と、校舎に残る生徒の声が遠くで聞こえる。

気まずささえ感じる、この空気。


あたしは席に座りなおし、数学の宿題を始める。



「――なぁ、尾関」



一問目の問題の答えを書き終わったとき、翠川くんが口を開く。



「章吾のこと好きになって、どれくらい?」

「えっ……?」