「うん、あいつ、今日はちょっと用事があるみたいでさ」
「あぁ……、大急ぎで帰っていたもんね」
窓の外をふと見る。
朝から続いていた曇り空から、ぽつりぽつりと小さな粒の雨が降り出す。
日直が閉め忘れた窓から吹き込む、湿気を帯びた生ぬるい風。
雨が降りこんでこないように、あたしは席を立って窓を閉めた。
「今日ね、笠原くんが普通に話してくれたんだー」
「えっ?あいつが?」
窓を閉めて振り返ると、翠川くんはひどく驚いた顔をしていた。
「うん。あたしの携帯番号のメモもね、『ありがとう』って言ってちゃんと受け取ってくれたの」
「………」
あれ……?
なに……、この微妙な反応。