「あれっ、愛美は……」
「井ノ口だったら、さっき担任に呼ばれていたぞ」
「えっ、そうなの?」
愛美、すぐ帰って来るかな。
今日出された数学の宿題でもして待っていようかな。
「井ノ口が戻ってくるの、待つ?」
「うん。宿題でもしながら待とうかな」
そう言って自分の席に座り、机の中から数学の教科書とノートを取り出す。
てっきり帰るのかとばかり思っていた翠川くんが、あたしの前の席にゆっくりと腰を下ろした。
「……笠原くんと一緒に帰らないの?」
シャーペンの芯をカチカチと出しながら、あたしは首を傾げて翠川くんに尋ねる。