話を中断するように、愛美が廊下の方を指さす。
廊下で話を終えた笠原くんが教室に戻り、自分の席に座る。
あれ……?
なにか良いことでもあったのかな。
笠原くんの顔には、笑みが浮かんでいた。
今だったら話せるかもしれない。
夏休みの誘いも、もしかしたらOKが出るかも……。
そんな期待を抱きながら、笠原くんの方に駆け寄る。
笠原くんには、『尾関由香アンテナ』が体中に張り巡らせてある。
あたしが近づくだけで、敏感に反応するアンテナ。
それまで笑顔でいても、アンテナが反応すると、一瞬にして表情は険しくなる。
――いつも、そうだったのに。
今は、あたしがそばに来ても、顔に浮かぶ笑みは一瞬たりとも崩れていない。