「違う」と懸命に否定する笠原くんの顔は本気だったけれど。
初めての会話らしい会話に舞い上がっていたあたしは、男子の言葉を否定することもしなかった。
「おい、章吾ー」
幸せなひとときに浸っていると、教室に戻ってきた翠川くんが笠原くんを廊下に呼び出す。
笠原くん、あっけなく退場。
あたしは足早に廊下に出て行く笠原くんの背中を見送ると、愛美のところに戻った。
「なに盛り上がっていたのよー」
さっきの光景を、離れた自分の席で見ていた愛美がにやにやしながら突っ込んでくる。
「笠原くんとね、話せたんだよ」
「へぇ。今度はキャッチボールが成立したわけ?」
「うん!でねっ、あたしのこと『おまえ』って言ったのよ」
興奮して話すあたしに、愛美はいつも呆れ顔をする。