とりあえず振り向いてみよう、と、あたしは無表情のままでゆっくりと振り返った。

笠原くんはあたしの方を直視していて。

その澄んだ瞳に、あたしはドキドキして眩暈さえも起こしそうになった。


笠原くんはイスから立ち上がり、ゆっくりとした歩調であたしに近づいてくる。

今までずっと、あたしを見る笠原くんの顔は、迷惑極まりないという表情だったのに。

こうして、あたしに近づいてくる笠原くんの顔はとても穏やかだ。


この作戦を教えてくれた愛美に、あたしは心の底から感謝する。



「……おい、立花ってー!」

「あぁ?」

「おまえ、すぐ近くで呼んでるのに無視すんなよー」



――……はい??


笠原くんは、あたしの横を素通りして……。

あたしの真後ろにいた立花くんに、屈託のない笑顔で話しかけている。