程なくして始まった撮影。

聡くんの言っていた『素人の花婿役』は、笠原くんのことだった。



「――おまえさぁ、もし俺がここに来なかったら、花婿役はどうするつもりだったんだよ」



いったいいつの間に用意していたのか。

淡いグレーのタキシードを着た笠原くんが、ブツブツと文句を言う。



「えー? いや、絶対来るって分かっていたし」



呑気に言いながらカメラの準備を始める聡くん。



「……ったく。その自信はどこからくるんだよ」



顔をしかめながら、笠原くんは着心地悪そうに襟元を何度も手で緩めていた。