さっきから固まっている唇をゆっくり動かす。


「晴ちゃんと…居る」


「ん、よろしい」



晴ちゃんと二人でバレンタインデーを過ごせるなんて思ってもみなかった。


「でさ、」

「ハイ」


「なんで今日そんな可愛くしてんの」


聞いてるのか聞いていないのかわからないトーン。


一応、答えとくか…。



「そ、そりゃあ、今日バレンタインデーだもん」

「何?誰かにあげんの?」


胸の奥がぎゅーっと締め付けられた。


多分、今が渡すタイミングだよね。




カバンの中に入っていた一つのチョコを取り出す。



「…晴ちゃん…、あげる!!!」


差し出したチョコを見つめるだけで、晴ちゃんは受け取ろうとしない。


やっぱり…ダメ、か…。



そう諦めかけていると


「あ」


と無愛想な表情のまま、晴ちゃんは小さく口をあけた。


「え?」

「あ」



入れろってこと、だよね。


「早くしろよ、あ」


「ちょっ、待って!」



昨日丁寧にラッピングした箱を、再び自分で開けるとは思わなかった。