さっきまで平気だったくせに、すぐそばに綺麗な顔があって、いっきに心臓の音が加速した。
緊張しながら、あたしはきゅっと目を閉じた。
「すっ……」
き。
そのひと文字をさえぎる、絶妙のタイミングで。
あたしのスカートのポケットから、着信音が流れだした。
あと何ミリかで唇が触れるという距離で、ぴたりとふたりの動きが止まる。
な……
なんてタイミング!?
「っ……ご、ごめん!」
思わず葵衣からぱっと離れて、口元を押さえた。
ちょっと赤くなった葵衣もあたしから顔をそらして、なにも言わなくて。
唯一、ふたりのあいだに流れ続けるのんきな着信音。