表参道ヒルズの1階に新しいカフェがオープンするようだ。
外には200人を越える行列が連なっており
オープン前から外は盛り上がっている。
店内のカウンターには185センチの色白のやや肉付きの良い男がエスプレッソマシーンの調整をしながら叫ぶ。

「おい、ピス!すごくね?この行列さぁ。日本の超一等地は違うねえ」

と、店内が異様な緊張感に包まれるなかで
そんな声が響き渡った。
すると、
生クリームを泡たてていた165センチの色黒で痩せている男がキッチンから出てきた。

「あー、やっと仕込み終わったわ。
公太、もうその呼び方はやめろよ。今日から晴れて俺は表参道ヒルズの1階にオープンする話題のカフェのスイーツ担当だぜ?シェフとかそんな感じで呼んでくれよー。」

客席をチェックしていた小柄で可愛らしい女の子が二人の会話を聞いて笑っている。

「オープンする前から、なに成功した気になってんのよ。この場所は話題こそ作りやすいけど
飽きられるのも早いんだからね!?お二人さん」

「そんなこたーわかってるよー。この日のために5年間準備してきた。一人じゃここまでこれなかったよ。ピスと杏には本当に感謝してるよ。これからお祭りの始まりだからさぁ、今まで辛かったことは忘れて死ぬほど楽しもうぜ! 」

公太が、そう言うと
ピスと杏は顔を見合せて微笑んだ。

ピスは、専門学生時代についたあだ名で由来は
頭がちっちゃくてピスタチオみたいということでついたあだ名だ。
調理師専門学校を卒業後、和菓子職人として修行したが体を壊してやめて以来、派遣社員として飲食業界からはめっきり離れていた。

杏は、
なにやら外がざわついている。

公太が外を覗きこみ、
「ようやく役者が揃いましたかー。これでオープン日大盛況間違いなしだな!」
「うっそー!なんでハル君が来てるの??しかも、列の整理してるし!!!公太、どーなってんのよ!?」

杏は化粧を直しにトイレへ駆け込んだ。
ハルとは、ここ数ヵ月でブレイクを果たして人気急上昇中の若手俳優だ。

「ホントにハル君来てくれたんだねー、しかも交通整理なんてさー」
ピスは公太の方を見て、ガッツポーズ。
ハルが店内に入ってきた
「おはよ!ついにオープンだね、公太!自給800円で手伝いに来たよ(笑)」
そのとき
「キャー!!」
杏がトイレから帰ってきたようだ。
「あ、あの、、私、、、、杏といいまして
、、ファンでしてぇ~嬉しいですー」

「ありがとうございます♪たしか、公太の友達で彼氏が5人いる杏さんだったよね?」

杏は公太を睨んだ。

場をなごませるようにピスが割り込んだ。

「あれ?そんなことまでゆうた話してたんだ。おしゃべりだなぁ(笑)ハル君久しぶりだね、学生の時以来じゃない?
確か最後にあったのは公太の寮にいったときだよね!ウイイレぶりっす!」

「ピスじゃん!一緒だったんだ、最近名前聞かないから記憶から消えてたわ。
確か、、和菓子職人になったけどアンコ練りすぎて肩に爆弾出来て引退したんだよね。
その話聞いたときは笑ったわー。」

ハルは公太とは、地元北海道の高校からの友人である。高校を卒業して上京した際に、たまたま同じ学生寮に入居することになり、1年間共に暮らした仲だ。
ピスは何度か寮に遊びにいっているので、ハルのことも知っている。

「もう!なんなのよ!二人して友達なんて一言も聞いてなかったんだけどっっ。私がファンなの知ってたんでしょ??ばか!」

杏が猛烈に怒っている。

「わかった。わかった。謝るよ。でも、杏が知ったら周りに言いふらしたり、ツイートすると思ってさ。
ハルには、時給払ってバイトってことで来てもらえば事務所通さなくていいって作戦だったから、ハル来店!なんて告知したら事務所と揉めるじゃん?
ハルの為だし、杏が揉め事に巻き込まれない為でもあるってことで許してもらえるかな?」

「私がツイートすると思われてるのは少し気にさわるけど、仕方ないから許す!ハルのサイン10枚とね!」

「全然いいよー♪むしろサインの練習になるしねー」
ハルが快く受けてくれたお陰で場が落ち着いた。

公太が、3人を集めオホン!とひとつ咳払いを挟み、ゆっくりと口を開く。

「ピス、杏、ハル。皆本当にありがとう。18歳の頃から描いていた夢が今叶おうとしているよ。この1号店の成功が1000店舗になったときによき思いでとして振り替えられるよう、俺は人生かけて頑張りますので宜しくお願いします!」

「良かった、かは、まだわかんないけど今日が大きな第一歩だね!チェーンストアになったらCMよろしく!じゃあ俺は列の整理にもどるわー!お客さんで溢れてるからね♪」
ハルは身長180センチ体重60キロ小池徹平の目が切れ長になった感じのイケメン俳優だ。

「成功してハル君を事務所を通して広告塔として迎えなきゃね(笑)」
と杏。

「じゃあそろそろオープンだね!仕込みはいつでもOKだよ」
とピス。

「したっけ、これより開店します!」

公太の一声で、カフェ《ミナ=コタン》は歴史の一ページ目を刻むことになる。