契りのかたに君を想ふ





入学して1番最初に声をかけてくれたのが絵里加だった。


その後、楓や里美なども加わって私達4人は楽しく高校生活を過ごしていた。






あの夏まではーーーー……。





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ーーーーーーーーーーー……


夏休みの少し前、私は学年1モテる松本君に旧校舎に呼び出された。



松本「胡桃沢さん……、俺…入学式の日に一目惚れしました!付き合ってください!!!」



産まれて初めて告白された私は何て言ったら良いのか分からなかったが答えは始めから決まっていた。




絵美「ごめんなさい…私……、松本君の事…よく知らないし……」




私が断った理由は"よく知らないから"もあったんだけど、1番の理由は……






















………"絵里加の好きな人だったから"だった。












そしてその後、松本君が私に告白したことが学校中に広まった。



それからだ。私が学年中からいじめを受けるようにたったのも。



ーーーーーーーーー……

ーーーーーーーーー……



最後の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴ると私は同じクラスである遥と真央に机を挟むようにして囲まれた。




絵美「…ど、どうしたの?」




遥「お前さ、何で学校来るの?」




絵美「……え…」




真央「目障りなんだよね!学校辞めてくれない!?」




絵美「………っ…」





遥「聞いてんのかよ!?」




バキッ





そう言って遥は私の胸ぐらを掴むとそのまま私の右頬を強く殴った。





「顔に傷つけちゃダメだよ〜!親にバレたりしたらどうすんの〜!?」




そう言って声をかけて来たのは穂花だった。





真央「あ、大丈夫!この子親なんていないのと変わらないから!!」




穂花「は?」




遥「コイツの親、絵美が夜寝た後に帰って来て、朝は絵美が起きる前に仕事に行くの。親にまで嫌われてるコイツ、流石に可哀想だよね。」





絵美「…っ……違うよっ…!お母さん達は…私のためにっ…」





真央「うるっさい!!誰もそんなこと聞いてないから!」





私……お母さん達にも嫌われてるの…?





ガッシャーーーーン





音に驚いた私は自分の机が吹っ飛ばされていることに気づくのに時間がかかった。





遥「お前さ、生きてること自体迷惑なんだよね。消えてよ。お前が消えれば親も少し楽になるんじゃない?お母さんだって仕事しなくてすむし」




絵美「……っ…」




穂花「あっ、どこ行くんだよ!!!」




もう何もかもが嫌だった。





生きていることさえーーーー……。









私は鍵のかかった屋上のドアを蹴り破ると何の迷いもなく手すりを乗り越えた。





絵美「私がいなくなれば…みんな嬉しいんだよね?お母さんと…お父さんも…楽になるんだよね。みんな…、バイバイーーーー…」







私はその時、強い光につつまれたことに気づかなかった。













ようこそ未来より参られし少女よ。




自らの命を絶ちし汝に贈り物をせむ。




それを吉ととるか凶ととるやは汝ついでなり。



地にうつろひし世をあらましごとといふ名のかげに染め直せ。





新しき歴史を作り出せ。










絵美「……っ…」




目が覚めると木造の天井が目に入った。




絵美「……なん…で…?私は…死ぬことも許されないの…っ…?」




悔しさに1人涙を流していると突然襖が開き、着物を来た男が入って来た。





「やっと起きたか。お前、3日も寝てたんだぞ」




絵美「そんなに…」





「名前…」




絵美「え?」




「お前の名前は?」




絵美「胡桃沢…絵美…」




「絵美か…。俺は土方だ」




絵美「土方…」





土方「いきなり呼び捨てか」




彼、土方はそう言うと小さく笑った。




土方「動けるか?」




絵美「あ、はい」





土方「良し。着いてこい。」









私は土方に着いて行くとある部屋に通された。




土方「お前はそこに座れ」




私は大人しく指定された場所へ座った。




「では、自己紹介からいこうか。俺は壬生浪士組局長の近藤勇だ」




土方「さっきも言ったが、俺は土方歳三。壬生浪士組副長だ」





「壬生浪士組副長の山南敬助です。宜しくお願いします」





「副長助勤、壬生浪士組1番組組長の沖田総司です」





「副長助勤、壬生浪士組2番組組長の永倉新八だ」





「副長助勤、3番組組長の斎藤一」





「同じく副長助勤、6番組組長の井上源三郎だよ」




「副長助勤、8番組組長の藤堂平助だ!宜しくな!」





「俺も副長助勤、10番組組長の原田左之助だ」




皆の自己紹介を聞いているといくつか疑問があった。




何故、皆着物を着ているのか。





何故、みんな髪が長いのか。





何故、あの有名な新撰組幹部と名前が全く同じなのか。





近藤「君の名前も教えてくれるかい?」





絵美「……私は胡桃沢 絵美です。あの、一つだけ尋ねて良いですか?」




近藤「我々が答えられることなら何でも良いぞ!」




絵美「今は……何年ですか?」




私がそう聞くと皆驚いたのかヒソヒソと話し始めた。




山南「今は文久3年ですが…」





絵美「ぶんきゅう…」




文久3年、つまり新撰組になるまえの壬生浪士組が京へ登った年だった。




土方「俺たちも聞きたいことが山程ある。まずお前は何処から来た。そしてお前はどこの者だ」





絵美「私は……」





何て言ったら良いんだろう…。




多分…私はタイムスリップをしてしまったんだ。



でも、そんなこと言っても信じてもらえるわけがない。




どうすれば良いんだろう…。





絵美「私…は……」




迷った挙句に私は決めた。




絵美「未来から来ました」




最初は呆気にとられたのか室内が静まり返ったが、それは鬼の副長によっていとも簡単に破られた。



土方「何ふざけたことを」



絵美「……信じられないのなら…私を斬りますか…?」




土方「………」





絵美「斬りますか?」





土方「そうだな。斬るしかねえな」





そう言って土方は刀を取り出し私の首元へ当てた。





絵美「本当に…斬ってくれるんですね?」





土方「………は?」





絵美の斬られることを望むかのような言い方に流石の土方も戸惑いが隠せなかった。





大抵の者は刀を取り出し脅せば正直に全てを話すが絵美は違ったのだ。





永倉「お前、死にてえのかよ?このままだと斬られるんだぞ」





絵美「私も馬鹿じゃないのでそんなこと分かってます。土方さん、斬ってくれるんですよね?良いですよ。斬ってください」




そう言って刀を掴み自らの首に更に強く押し付けた。




そんな時……




















バチンッーーーーー…。












近藤「何故そうやって命を無駄にするようなことを言うんだ!!!生きたくたって生きられない奴がいるんだ!!」




近藤に頬を叩かれた。




絵美「私、身投げしたんです。そのまま私は死ぬはずだった。死ねるはずだったのに…。気づいたら布団の上で寝かされていたんです」



死ぬ直前を思い出し、思わず目に涙が浮かんだ。



沖田「何故そんなに死にたいんですか?」




絵美「私…未来で学校…じゃなくて寺子屋?でいじめをうけていたんです」




藤堂「いじめ?」




絵美「…嫌がらせ?ですね」





土方「何故そのいじめにあってたんだ?」




絵美「友達の想い人が私に恋仲になってくれって言ったのが知られて…それで…毎日殴られたり、蹴られたり…物を取られたり…。限界だったんです…」



永倉「んなの、ただの妬みじゃねえか!」


近藤「…辛かったな…」



土方「だが、まだ未来から来たという証拠がねえ。それにその髪の色…異人じゃねえよな?」




異人って確か外国人のことだよね。



絵美「違います。私は純粋の日本人です」



土方「じゃあその髪の色は何だ?」



絵美「未来ではある薬を髪に塗れば色を変えられるんですよ。私は黒髪が嫌で金髪にしちゃいました」



藤堂「女はやっぱ黒髪美人と言われるように黒髪が1番だろー!」



絵美「(ギロ)何か?」



藤堂「…何でもありません」


絵美「ま、時間が経てば髪も伸びて黒髪に戻りますから」



原田「えっ、戻っちまうのか?」




絵美「薬をつけているのは今ある髪だけで、これから伸びてくる髪は元の色に戻ります」




永倉「良い色なのにな~」




藤堂「いや、だから黒かm……、ごめんなさい」



あの魁先生と呼ばれた藤堂平助を目で黙らせた絵美は何者なのだろうかと誰もが思っただろう。




金髪を気に入ってくれる者もいれば気に入らない者もいて反応は様々だった。











絵美「それから…、後二つ。決定的証拠があります」




山南「聞かせてください」





あれだけ斬ってもらいたかったのに、何故私はここまで未来から来たことを認めてもらおうと必死なのか…この時はまだ分からなかった。





絵美「これは携帯と言って同じ物を持っていれば異国の人とでも話すことができます。他にも文通が出来ますね」





近藤「素晴らしい!歳、これがあればツネやタマとここから話ができるんだぞ!!」





土方「で、もう一つの証拠とは?」





近藤の声を聞こえないものとする壬生浪士組の副長、土方歳三恐るべし。





絵美「私はこの組の行く末を事細かに把握しています。ちょっとした予言をしましょう。近いうちに大阪で壬生浪士組の名を語り悪事を働く浪士が現れます」





土方「なんだと!!!」






山南「それは…いつ起こるかはご存知ないのですか?」





絵美「多分…それを教えてしまったら歴史が変わってしまいます…」





山南「そうですか…」




まだ私には歴史を変える勇気がない。




だから簡単に史実を彼等に話すことができなかった。




土方「だが…それはデマかもしれねえ。もっと決定的なのはないのか?」




絵美「あー、あると言えばありますけど…言っていいんですか?」




思い出すだけで腹の底から笑いがこみ上げてくる。





土方「あぁ」





絵美「絶対に怒らないでくださいよ」




土方「怒らねえよ」




絵美「……梅の花 一輪咲いても 梅は梅」




バチンッ




絵美「怒らないって言ったじゃないですか!!!!!」




土方「あれは誰だって怒るだろう!!!」




絵美「いや、知りませんし!!」




沖田「ぷっ…くくくくくく…あははははは!絵美さん面白すぎます!!あははは!」




土方「ったく!仕方ねえ。信じる」




絵美「ありがとうございます!」




絵美は今日一番の笑顔を見せた。




幹部「/////////////」





近藤「ゴホンッ。ところで胡桃沢君、帰る場所はあるのかい?」




絵美「…………………」







すっかり忘れてた。




私、未来から来たから帰る場所なんてないんだ。




近藤「その様子だとないようだね」




絵美「…はい」




近藤「なら!ここに住むと良い!」




土方「本気で言ってるのか!?」




原田「っしゃーーーー!このむさ苦しい男所帯に華がきたーーーー!」




近藤「年頃の娘を治安の悪い京に放り出すことは出来ないだろう」





土方「……………」




近藤「これは決定的事項だ!良いだろう?胡桃沢君」




絵美「えーっと…」





近藤「良いだろう?」





絵美「………はい」




近藤さんって結構強引なんだね。









近藤「そう言えば…部屋が足りなかったな…」




絵美「……やっぱりわたs…」




ここにいちゃいけない気がする…。



そう言おうとしたのだが彼等は私を放っておいてどんどん話を進めてしまった。





土方「仕方ねえ。俺の部屋に来い」




沖田「土方さんは忙しいので私たちの部屋の方が良いと思いますよ~!」




原田「俺もそう思うぜ!!!」




永倉「男ばっかりだからな!華が必要だ!!」





藤堂「そうだ!そうだ!!!」




斎藤「俺もそう思います」




土方「………………」




山南「今日は土方君の負けみたいですね」





土方「…………うるせえ」





近藤「部屋割りは決まったみたいだな。胡桃沢君、君は総司達と同室だ」




絵美「これから宜しくお願いします」





近藤「あと、ここでは何かしら働かなければならないんだが…明日から女中として働けるか?」




絵美「はい!私、炊事は得意です!」




近藤「おぉ!それは助かる!」