スパンッ
永倉「お帰りぃ〜」
絵美「ただいま…」
私は部屋に入りお水を一口飲むと、さっき芹沢さんから貰った手紙が目に入った。
絵美「どっちから読もう…」
斎藤「それは何だ?」
絵美「芹沢さんとお梅さんからの文」
斎藤「…読まないのか?」
絵美「読むけど…どっちから読もうかなって……」
まず芹沢さんの文を開いた。
***********
胡桃沢、お前は初めにあった頃より大分強くなった。
もちろん剣術だけでなく心もだ。
お前との出会いは隊士共から醜いイジメとやらを受けていた時だな。
最初は黄金色の髪に興味が湧き側に置いた。
だが、段々お前と過ごしていくうちに放っておけなくなった。
剣術の稽古をしている時の表情や梅と話す表情、何もないところで転び大泣きしていた表情、沢山の表情を見た。
そう言えば船から落ちたこともあったな。
あの時は久しぶりに腹の底から笑った。
そしていつの間にかお前への愛情が湧いてきたんだ。
家族というものを持ったらこうなるのか、とな。
儂等はまだ出会って数月だと言うのに何故だかもっと前から知っていたような感覚に陥っている。
何故だろうな。
儂はお前より先に逝く。
だから儂のことなど早く忘れて前へ進むのだ。
お前のことだから暫くは飯が喉を通らなくなるだろう。
沢山食べて、沢山寝て、沢山笑え。
そして長く生きろ。
前にお前は、お前にしか出来ないことをすると言ったな?
約束しろ、必ず日本を統一するんだ。
誰にも出来ないことをやれ。
やり続けろ。
胡桃沢…いや、絵美。
幸せになれ。
壬生浪士組 筆頭局長 芹沢鴨
***********
ポロポロポロポロ
絵美「幸せに…なれ…って……統一っ…しろって……、何で…見届けてくれないの…っ!バカッ!バカバカバカッ!芹沢さんの…バカッ…。バカだよ…っ……」
永・斎・藤「………………」
永倉「ほ、ほら!泣いてねえでお梅さんのも読んでみろ」
絵美「…う…ん……」
***********
絵美、この手紙を書いたのは芹沢はんから勧められたからなの。
あのしとらしくへんでっしゃろ?
うちがなんぼ恋文を出しても返事をくれやらん人なのに。
うちに話しかけてくれた女子は絵美が初めてやった。
遊女として郭で働きとる時もどなたはんシトリとしてうちに話しかけてくはる人はいなかったわ。
あんたはんはうちの最初で最後のお連れよ。
というよりも親友で 娘みたいな存在やったわね。
うちは絵美が大好きやった。
ほんでこれからもずっと大好きよ。
うちはこれからあのしとと幸せになるわ。
ずっと、ずっと絵美の事を見守っとる。
ほんで死んかて尚、絵美の中で生き続けるわ。
絵美がうちらを忘れへんでいてくはる限りずっと生き続ける。
最後に絵美、おおきに。
こへんなうちとお連れになってくれて、おおきに。
梅
***********
絵美「どう……して…、この時代の人はこんなアッサリしてるのかな…」
私は額を手で抑えながら必死で涙をこらえようとしたが出来なかった。
芹沢さん、お梅さん、貴方達の考え方は本当に正反対ですね。
芹沢さんは忘れろと言い、お梅さんは忘れないでと言った。
でも私が今読んだ文はどちらも涙で湿っていて、所々文字が滲んでいました。
私は芹沢さんもお梅さんも大好きです。
これからもそれは変わりません。
そして永遠に貴方達を忘れることはありません。
芹沢さん、お梅さん、お幸せに。
もう何も貴方達を引き裂くような困難はありません。
どうか、お幸せに。
外は大粒の雨が降っている。
それはまるで、空も大切な人を失ったかのように………
いづこも変はらざる人間なれど何故戦い、殺しあふや?
いくら問ひ掛けても答えは出でざるまま。
志は違えども同じのみ笑い、同じのみなやむ。
戦に悪も正義もなし。
人を殺し合ひ、その先なるものは何なのか。
平和なると言はば、さる平和などいらず。
いつの世も人は憎しみ合ひ、殺し合ふ。
もう終わりにせむ。
未来より来し少女よ、新たなる世を、平和なる世を作り出せ。
その後、壬生浪士組改めて新撰組となった私達。
近藤さん達は泣いて喜んでいたが私一人だけ、喜ぶことはできなかった。
「絵美、お茶が入ったよ」
絵美「源さん、いつもありがとう」
井上「なぁに、気にするな」
芹沢さん亡き後、泣きはしないものの闇に囚われていた絵美に歩み寄ったのは源さんこと井上源三郎だった。
絵美「ねぇ、源さん」
井上「何だい?」
絵美「私、時々思うの。何故ここに来たんだろうって」
井上「………………」
絵美「ずっと分かんなかった。でもね、剣術を始めて思ったの。もしかして、私のするべき事はこれなんじゃないか?ってね。そしてこの気持ちは芹沢さんの死を通してハッキリした。私はこの血に濡れた世を変える為に来たんだってね」
普通の人なら女子には無理だとか、女のお前に何が出来るとか言うのだろうが井上は違った。
井上「良いんじゃないかい?絵美なら出来ると思うよ」
絵美「源さん……」
私は芹沢さん亡き後、初めて泣いた。
源さんの腕の中で。
井上「お前が来てから泣き虫な妹が出来た気分だよ」
絵美「フフフ、いつも迷惑かけてごめんなさい」
井上「良いんだよ。誰も迷惑なんて思ってないさ。まぁ、思ってる奴もいるだろうがな」
絵美「あ!源さん酷ーい!」
井上「ハハハ、冗談さ」
原田「何か楽しそうだな!」
絵美「あ!左之だー!」
永倉「俺たちもいるぜ!」
絵美「新八に平助!一まで!どうしたの?」
藤堂「じゃん!これ何だー?」
絵美「っっっ!みたらし団子!!!」
斎藤「お前のためにみんなで買いに行ったんだ」
絵美「嬉しい!!ありがとう!!!いっただっきまーす!」
私は無駄に大きな声で叫ぶと大好きなみたらし団子を頬張った。
絵美「おいふぃ〜〜!」
井上「これこれ、食べながら話さない。行儀が悪い」
絵美「ゴックン)は〜い!あ、一いらないのー?もらっちゃうよー!」
絵美が斎藤の団子に触れようとすると光の速さで取られてしまった。
バビュンッ
斎藤「食の恨み程恐ろしいものはないと思っておけ」
絵美「は、はい…」
私はみたらし団子が齎した幸福に身を包まれていたせいでこれから起こることなんて全く予想出来なかったんだ。
原田「そう言えば何か近藤さん様子がおかしいと思わねえか?」
藤堂「そうか?」
永倉「そう言えば、ついさっき会津藩邸に行くって血相変えて出てったぜ」
絵美「ふーん」
ほら、もう時間は迫ってる。
スパンッ
永倉「おう、近藤さん!どうした?」
原田「顔色真っ青だぜ?」
近藤「あ、あぁ大丈夫だ。それよりも絵美、俺の部屋へ今すぐ来てくれるか?」
絵美「私…ですか…?」
近藤「あぁ、出来るだけ早く来い」
スパンッ
全員「…………………」
原田「お前、何かしたのか?」
絵美「い、嫌だな!何言ってんの!何もしてないわよ!」
斎藤「そう言えば……お前、この間近藤さんのお気に入りの湯呑みを割っただろう?」
絵美「ゲッ、何でそれ知ってんの!?」
斎藤「見ていたからだ」
井上「それより早く行った方が良いんじゃないかい?」
絵美「そうですね…行ってきます。切腹させられちゃうのかな…」
永倉「まぁ、その位の覚悟を持って行くんだな。」
絵美「励ましてくれてどうもありがとう」
永倉「お安い御用よ!」
私は永倉の発した言葉に反応することもなくヨロヨロと近藤さんの部屋へ向かっていった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
スパンッ
絵美「失礼します…」
近藤さんの部屋へ入ると中にはコメカミを抑えて首を左右に振る土方と溜息を吐く山南と未だに顔面蒼白の近藤さんの3人がいた。
絵美「えーっと…、私何かしましたか?」
近藤「いや、そう言うわけじゃない。まぁ座りなさい」
絵美「はい……」
山南「本当に大丈夫ですかねえ…」
土方「俺は何故こんな奴が欲しいのが気が知れねえ」
何なんだ一体。
さっきから3人とも私の顔を見れば溜息を吐いて!
絵美「用がないなら帰りますよ」
山南「用ならあります。只、非常に言いにくいのですが…」
近藤「実は…、一橋慶喜公がお前を欲しいと言っておる」
あぁ、何だそんな事。
………………って、
絵美「はぁ!?」
ひ、一橋慶喜って十五代将軍の徳川慶喜の事よね!?
絵美「え、待って、何で、どうして!?」
山南「まぁ、落ち着いてください」
近藤「実は先程松平公から急なお呼び出しがあってな、容保公がお前の話を慶喜公にしたら偉くお前を気に入ったらしくてな?だから…その……」
あぁ、なるほどね。
絵美「金をつぎ込まれたんですね」
近藤「すまん!勢いで了承してしまったんだ!」
絵美「別に良いですよ。いずれ行くつもりでしたから。でも……、こんな形で出で行きたくはなかった。私のお父さん的存在の人に売られるなんてね…」
スパンッ
土方「まぁ、アイツが怒るのも無理ないな」
山南「父親のように募っていた人に売られたら誰でも傷つくでしょう」
近藤「歳に山南君まで……!」
土方「絵美んとこでも行くか」
山南「私も行きます」
近藤「そ、そんな……」
スパンッ
原田「おう、切腹は免れたみてえだな!ケラケラケラケラ!!!!!!」
絵美「切腹の方がマシだった…」
そう言って私は平助の食べ掛けのみたらし団子に食らいついた。
藤堂「俺の団子ぉぉぉぉぉお!!!!」
永倉「それより切腹の方がマシって、どんなお仕置きだったんだ?」
絵美「別に怒られてないよ。ってか私が怒ってるの!!!」
原田「おいおい、ちょっと話が見えねえんだけど」
井上「絵美、話してごらん?」
絵美「近藤さんに…売られたの……」
永倉「………はぁ!?」
原田「売られたってどういう事だ?」
大の男がそんな迫ってきたら暑苦しっつーの。
そんな事言わないけど。
絵美「何か私、一橋慶喜って奴に気に入られたみたいで私を多額のお金と交換したのよ」
永倉「嘘…だろう?近藤さんに限ってそんな事……」
土方「嘘じゃねえさ」
藤堂「それ、俺許せねえわ!近藤さんと話して来る!」
永倉「俺も!」
原田「俺も行く!」
山南「まぁ、まだ絵美本人が正式に受諾してないのでまだ決まったわけではありません」
藤堂「そうなのか?じゃあ何も心配する必要はねえな!」
斎藤「絵美、お前はどうしたい?」
斎藤がそう聞くと皆一斉に私の方へ視線を向けた。
絵美「そりゃ、もちろん行きますよ」
全員「はぁ!?」
山南「絵美さん、もし新撰組の利益の為などと言う理由で行くのなら副長の私が許しませんよ?」
絵美「まぁ、それもあるけど芹沢さんとの約束もあるし。私は行くよ!」
土方「芹沢との約束?」
絵美「日本統一です!」
土方「お前一人の力で何とかなるような事じゃねえだろう!」
絵美「何当たり前なこと言ってんですか」
土方「あ?」
絵美「無力で何の役にも立たない私に日本統一なんて出来っこない。でも、将軍を味方に付ければ出来るはず!」
藤堂「でも俺は絵美に出て行って欲しくねえよ」
絵美「ありがとう、平助。でも敵になるわけじゃないんだから!」
永倉「つーか、慶喜公って将軍じゃねえよな?」
絵美「……今はね」
原田「大体、慶喜公が将軍になるとしても家茂公亡き後だろ?家茂公だってまだまだ若えし暫くはなれねえぞ?」
絵美「良いの良いの!」
土方「絵美、もう決まってるだろうが最終確認だ。今ならまだ断れる。お前は一橋慶喜公からの誘いを受けるか?」
絵美「はい」
返事をした絵美の瞳に迷いなどは一切なく、土方達幹部も引き止めることが出来なかった。
絵美「で?一橋慶喜はいつ来るの?」
ゴンッ ゴンッ
土方「慶喜公を呼び捨てにすんじゃねぇ!!」
山南「全く…。先が思いやられます」
絵美「いったぁ……。で?いつ来るの?」
土方「7日後だそうだ」
藤堂「そんな…早く……」
絵美「………………」
沖田「あれー?皆さんどうしたんですか、そんな暗い顔して」
土方「おう、総司か。巡察ご苦労だったな」
沖田「はい、それより何かあったんですか?」
永倉「近藤さんが……、絵美を一橋公に売ったんだよ」
沖田「………………へ?何の…冗談ですか?全然面白く無いですよ…」
土方「全部、本当だ」
沖田「そんな…」
山南「その件については絵美さん本人も受諾しています」
絵美「そーゆー事っ。じゃ、私は夕餉作りに行ってくるね」
私は出来るだけその場を早く離れたくて炊事場へ駆け込んだ。
絵美「……ふっ…うぅ………」
全部あんなの強がりだった。
いずれ行こうとは思ってたけどこんなに早くとは思ってもいなかった。
何よりも近藤さんに売られた事が最大のダメージだった。
………………………………………
沖田「どうしてこんな事に……」
土方「何でも、日本を統一するらしいぜ」
山南「あの子はまた大それた事を考えますよね……」
土方「俺もよ、最初近藤さんから聞いたときは何を考えてんだ!って思った。でも後になってアイツは行かないって言ってくれると思ったらそん時は冷静になれたんだ。だがアイツは見事に俺の期待を粉々に砕きやがった」
原田「まぁ、絵美の事だから速攻で帰ってくるだろ」
永倉「アイツ、以外と寂しがりやだからな!」
藤堂「案外、絵美よりも俺たちの方が寂しがりなのかもしれないな」
井上「そうかもしれないねえ」
全員「……………………」
夕餉の刻 in広間
土方「……………」
山南「……………」
沖田「……………」
永倉「……………」
斎藤「……………」
藤堂「……………」
原田「……………」
絵美「……………」
隊士達「(何なんだこの緊張感は!!普段オカズの取り合いをする永倉組長や原田組長まで大人しい!!!)」
近藤「(オドオドオドオド)い、嫌ぁ、やっぱり絵美の作る飯は美味いな!」
絵美「(ガン無視)」
近藤「(辛い。かなり辛い。)ほら、この味噌汁なんて特に美味い!」
バンッ
絵美「ご馳走様。平助、今日夕餉作るの手伝ってくれてありがとう」
平助「良いって!」
近藤「!!!」
絵美「これからお味噌汁は平助に作ってもらおうっと!近藤さんも私の作るお味噌汁よりも平助の作るお味噌汁の方が好きみたいだし?」
近藤「(やらかしたーーーーーっっっっっ!!)」
絵美「じゃあ私は先にお風呂もらいますね」
近藤「え、絵美!!」
絵美「……………何ですか?(ギロ)」
近藤「え、いやっ……その………」
絵美「何の用もないのに引き止めたんですか?」
近藤「あ…、いや、そうじゃなくて…その……」
絵美「何ですか?」
近藤「………す………」
絵美「す?」
近藤「……す……すま……」
絵美「……すま?」
近藤「……す……………
…………………………酢昆布食べるか?」
絵美「………………………………」
スパンッッッッッッッ!!!
永倉「嫌、これは予想外だった」
藤堂「俺てっきり"すまん"って言うのかと思ったら…」
永・藤「「酢昆布食べるか?」」
斎藤「ブフッ」
原田「お前にしてはここまでよく耐えた!良いぞ、笑え!」
土方「ったく…情けねえ……。局長のくせしてすまんの一言も言えねえなんて」
近藤「歳ぃ〜、お前も"すまん"は言えないだろ〜」
土方「うるっせ。俺は謝るような事を普段しねえ!だぁぁぁあ、もうここで泣くな!隊士達に示しが付かねえだろ!!」
ペイッ スパンッ
近藤「うぅ…寒い……」
土方によって廊下に出された局長、近藤勇だった。