契りのかたに君を想ふ






吉田「殺し、殺される、それがこの時代のやり方なんだ。未来から来た絵美に俺達の気持ちは分からない。ましてや女なんかにはな」



バチンッ




絵美「ふざけんな!!女だからって見縊ってんじゃねえよ!!大体てめえら雑魚みてえな考えの奴らがいるからどの時代になっても平和は訪れねえんだよ!!それに私だって長州の奴等をたくさん殺してる。だからてめらの気持ちも分かんだよ!!!」




私の口はもう止まることを知らなかった。




女だから、と言われた事が何よりも腹正しかったのだ。




絵美「大体、何で私ら女は男の三歩後ろ歩かなきゃいけねえんだよ。てめら男が女の三歩後ろ歩け!!女がいなきゃてめら男はいねえんだぞ。みんな女から生まれんだ。女を大切にしやがれ!!!女だからとか言ってんじゃねえよ!!!!」




高杉・桂「帰ったぞ〜」



私が怒り狂っていたその時、能天気な声と共に現れたのは桂と高杉。



2人は部屋を見ると驚いているのか硬直していた。




桂「一体何が…」




部屋の中はぐちゃぐちゃ。



顔を真っ赤にして怒鳴る私と稔麿。



そして稔麿に壁に押さえつけられている私。




高杉「お前ら何してんだよ!」




絵美「別に。もう寝る」




私は稔麿を突き飛ばすと布団を敷き始めた。




高杉「寝るってお前…まだ昼だぞ」




稔麿は稔麿で外へ出かける支度をしている。





桂「稔麿、どこへ行くんだ」




吉田「散歩」




取り残された2人は状況を把握出来ないまま部屋の片付けをした。








………………………………





高杉「絵美入るぞ」



スッ



高杉が部屋に入ると山になっている布団が目に入った。




高杉「何があったんだよ。稔麿があんだけ怒るなんて相当だぞ」




絵美からの返事はない。




高杉「布団引っ剥がすぞ」




絵美「………………」




バサッ




絵美「ぎゃあっ!」




今の季節は秋。




長時間布団に包まっているとその温もりから逃げ出せなくなる。




ましてや思いっきり布団を剥ぎ取られた日にゃ悲鳴も上がる。




高杉「で?何があったんだよ」




絵美「………別に」





頑なに口を閉ざす私に高杉は面倒になったのか大きな溜息を吐いた。




高杉「それだけ話したくねえなら無理に聞き出したりしねえけどよ、いつまでも閉じこもってんなよ?」




それだけ言い、部屋を出て行こうとした晋作。




絵美「ねぇ、一つだけ…聞いてもいい?」




一度襖にかけた手を降ろしもう一度私の方に向けた。




高杉「何だ?」




また吉田の時のように暴れられたらどうしよう、と心の中で少し躊躇したが思い切って聞いてみた。





絵美「何で…そんなに……幕府が憎いの?」





晋作は驚いたのか一瞬大きく目を見開いたが、すぐに元に戻り私の前に座りなおした。





高杉「お前、稔麿と何を話した?」










絵美「私は…ただ、幕府のことをどう思ってるか聞いただけ」




私がそう言うと晋作はやっぱりな、という顔をした。





高杉「少し…昔話でもするか……」





そう、ずっと昔のようで実はそうでもない最近の話を。










******



俺は18の時、吉田松陰先生が開いていた松下村塾に入塾した。



そこで出会ったのが桂小五郎や吉田稔麿だ。



吉田先生は素晴らしいお人だった。



だから全国から皆、松下村塾に入ろうと輩が集まってくる。



吉田先生は尊王攘夷思想の持ち主だったから同じような思想の持主がごっそりいるが、俺や稔麿、小五郎はそうではなかった。




ただただ、吉田先生の人柄に惹かれて入ってきたんだ。




そんな俺らに吉田先生は言われた。




あの言葉は死ぬまで忘れねえ。





松蔭「夢なき者に理想なし、

理想なき者に計画なし、


計画なき者に実行なし、


実行なき者に成功なし。


故に、夢なき者に成功なし。」





俺らはこの時、やっとそれぞれの胸の中にあった靄が晴れた気がした。



自分の思想なんて全くなく、ただ親の言いなりに動いていた俺たちは少しずつ尊王攘夷思想を持ち始めていた。




それからというもの、俺たちは積極的に尊王攘夷思想の偉い先生たちにお話を聞きに行ったりを繰り返していた。











1858年(安政5年)のある日、俺らは心の臓が口から出るかと思うくらい大きな衝撃を受けた。




「大変だーーーーーっっっ!!!!」




叫びながら松下村塾に飛び込んできたそいつに俺らは只ならぬ不安を感じながら門まで急いだ。





「井伊大老が天皇の許可なしに条約を締結したらしい!!!!!!」





松陰「何だと!!一体なぜそんなことを!!」




吉田先生は今にも屋敷を飛び出して行ってしまいそうなほど怒り狂っていた。




そしてその怒りを抑えられないまま、吉田先生は井伊大老の元へ行き投獄された。





先生は最後に俺らに向かって言っていた。




松陰「君たちと違うところは、私は忠義をしようとし、君たちは功業をなそうとしている」





その後吉田先生は処刑され、還らぬ人となった。










俺らは酷く後悔した。



何故、先生に着いていかなかった。



何故、誰も先生を止めなかった。




後悔の念に俺たちは包まれた。




そしてその後、先生が出来なかったことを俺たちがやってやろうと。




俺たちが代わりに先生の望んだ世にしようと。









*****



高杉「俺たちは絶対に幕府を許さねえ」



彼等の話を実は知っていた。



歴史の授業で習っていたからだ。



確かに井伊大老のやった事は許されない事だと思う。


でも、もう井伊大老は既にこの世にいない。


なのに何故そこまで幕府を恨むの?




私にはそれが理解できない。



もう良いじゃない。



幕府全体が悪いわけじゃないんだから。



絵美「それは幕府が悪いわけじゃないじゃない。全て井伊大老の独断で進められた事であって幕府全体に非があるわけじゃないじゃない」




高杉「でも大老のやったことは将軍の責任じゃねえのか?」




絵美「……確かにそうだけど…もう良いじゃない。幕府も勤皇も同じだけの事をやって来たんだから。全く…みんな石頭過ぎて疲れる」




ガコンッ



絵美「い"っ!!」



高杉「お前も石頭だn…ゴフッ」



ふんっと鼻で笑う晋作には回し蹴りをお見舞いしてやった




高杉「んの野郎っ!何しやがるっっっっ!!!」



絵美「女子に手を挙げるだなんて信じられない!!!!」




高杉「お前のどこが女子だ!!!女子は回し蹴りなんざしねえ!!!!」




絵美「うっさい!!新選組も長州も一体どうやったら…ブツブツブツブツ」




高杉「お前、頭悪いんだからあんま考えんなよ?」




晋作の小言も耳に入らないくらい考え込んでいたが、結局何も思いつかなかった。




やっぱり晋作や稔麿と穏やかに話し合いなんて出来ないのね。




小五郎に頼むしかないかなー。




そんな事を考えていると稔麿が帰宅した。




吉田「絵美、さっきは怒鳴って悪かった」




絵美「ううん、私も少し言い過ぎた。でも…長州のみんなと新撰組に仲間になってもらいたい気持ちは変わらない。だからこれからはゆっくりとみんなを説得していくね」




私がそう言うと稔麿は困った顔をしながらも頷いてくれた。










絵美「って言うか稔麿は晋作と大違いよね。晋作なんて私に拳骨落としたのよ?!それで謝りもしないんだから!!!」




高杉「お前も俺に回し蹴りしたじゃねえか!!!!」




絵美「私は女子。貴方は?」




高杉「……………………」





絵美「武士は女子に手を挙げていいんですか〜?」




高杉「うるせえなっっ!!!悪かったよ!!!!!!」




ふんっと鼻で笑うとまた晋作に殴られそうになったので避けると稔麿が笑っていた。




絵美「…………新撰組のみんなとあんまり変わらないのにな〜。みんなは今頃何してるんだろう」








******



スパーーーーーンッ!!!




高杉「朝だ!!さっさと起きろ!!!じゃねえと朝餉食わせねえぞっっっ!!」




絵美「……」





高杉「………起きろって!!!!」




高杉は怒鳴っても体を揺すっても布団を剥がしても起きない絵美に異変を抱き始めた。




高杉「稔麿ーーーーーーーっっっ!!!」




スパンッ





吉田「朝から何?うるいよ」




朝は低血圧なのか、普段穏やかな吉田はイラつきを隠せていないまま登場した。




高杉「こいつ、起きねえ…」




吉田「……は?」




吉田も同じようにして体を揺すってなんとか起こそうと試みるが全く効果はない。



そしてこんな時に限ってくるのが面倒な奴だった。



坂本「よ〜う、高杉!暇してるだろうと思って来てやったぜよ!」



高杉「悪ぃ、坂本。今は……」




坂本「絵美?!」




高・吉「は?」




突然、絵美の名を呼んだ坂本に驚きを隠せない2人。



坂本「黄金色の髪を持ち、京では絶世の美女と謳われている絵美じゃき。知らない奴のが珍しいが」




そうか、と納得する2人。



坂本「それに…次に会う時は未来の話を聞かせてもらう約束をしちょったが」