和樹と付き合っていた当時は

メディアや雑誌関係の仕事が全盛期で

月に1度のデートやたまに行くディナーは

なるべくあたしを知っているであろう年代の子達が遊ぶような場所は避け、

静かに都内のシティホテルで過ごした。

そしてディナーもわざわざ個室を取ってくれ、和樹なりの計らいをしてくれていた。

増えていくブランド物のアクセサリーや小物たち。

その頃丁度毎月のギャランティも3桁近くまで昇っていた。

しかしその環境に慣れていき

少しずつ何かが変化していくあたしと不釣り合いだったのが

唯一学校生活だったのは間違いない。


内部を知らなければ普通の都立高校。

ただ付近の住民からは学校宛に脅迫状が届く程とても嫌われていた高校だった。

柄は悪い、常識はない、入学した3分の2は皆自ら辞めて行くか退学させられた。

女の子たちは妊娠でお腹を大きくしながら登校してくる子が沢山いた。

制服を着ていても“お腹に赤ちゃんがいます”のストラップを堂々スクールバッグにつけたまま……

兎に角自由なのだ。


そんな学校でも話題は決まっていつも同じ

女の子たちは恋愛の話に花を咲かせていたし

中身はまだあどけなさの残る女の子だった。



彼氏は同級生や大学生。

女の子たちの悩みは決まって

“映画を見るお金が無い”

“毎日家でセックスばかりしていて飽きた”

“昨日寒さに震えながら公園でずっとお話をしていた

あたしには彼女たちの悩みを理解する事が出来なかった。

映画を見る時は通常の数倍〜数十倍の金額を支払い仕切りのあるフラットシートか

空いていれば個室を和樹が用意してくれていた。

恥ずかしい事に和樹と付き合う以前あたしは映画を見に行った事が無く、

初めての映画デビューが個室で見る映画だった。

後にこれがちょっとした事件を招く。

どうして千円ちょっとで見れる映画さえ見れないのだろう?

わざわざ寒さに震えながら公園でデートなどしなくても行く所なんて沢山あるのに。


いつも頭の中にはハテナがいっぱいで

しかしそれを口に出したりはしなかった

そして理解も出来ぬまま相槌だけをうっていた。

少しずつ感じ始めた周りとのズレ。



この頃はこの先の事は何も分からなかったと思う。