ことちゃんに連れて来られたのは、いつもの進路指導室。この進路指導室は旧で、今は新しく別の場所に進路指導室が設置されている。


だから此処は生徒の立ち入りが無い。
ことちゃんとあたしはよく、無断で利用しているけれど。


「今日、善志良に何か言われただろ。」


各自ソファーに座り、ことちゃんは煙草に火を付ける。あたしは今日貰った飴玉を口に放り込む。これ、お気に入りのミルクティー味だ。


「……ぅん。よく分かんなかったけど、夜出掛けるんだって。」


ソファーに寝そべると、すぐさま眠気が襲ってきた。あーすごい眠い。だって、普段ならまだ寝てる時間帯だもん。


誰かさんのせいでこんな早い時間に無理に学校に来たんだし。誰かさんのせいで目の前にいる誰かさんのせいで。煙草吸っている誰かさんのせいで。


「………んだよ?」


「……あの賭け事の期限、今日までだよ。ことちゃんに負けたとか不覚。」


むすっとして言えば喉を鳴らしてことちゃんは笑った。笑うとことちゃんって幼く見えるんだよね。そういうとこ、結構好きだったりする。


けど、あたしを学校に来させようとする強引さには疲れる。というか鬱陶しい上に面倒くさい。
出席日数はギリギリ確保出来ればいい。


行事にもある程度は参加するつもり。何とか式っていう類のものは拒否。退屈だし無意味さを感じてならないから。


「イチはジャンケンが滅法弱いからな。」


「弱いんじゃないよ。ただ…、苦手なだけ。」


ポーカーやトランプ、対戦もののTVゲームとかなら負けない。家にこもって磨いたあたしの技は並大抵のものじゃない。
…けれどどうしてか、ジャンケンだけは昔から苦手だった。


弱い、ではなくて苦手。
いきなりグーチョキパーの三つを出すなんて高度だ。咄嗟にどれか選べない。
それにあんなもの運任せだ。


3回勝負で2回負けたあたしは、ことちゃんの言う通り一週間の登校を余儀無くされていた。本当に、嫌々、仕方なく。