軽く返したあたしに、雄大くんはまた楽しげに笑った。この人はよく笑う。何が楽しいのか分からないけれど、楽しそうなのが分かるくらいには表情が豊かだ。
何だか、見ていて面白い。
あたしは机に頬杖をついて、じっくりと探るようにして仙波 雄大を見つめる。
仙波 雄大は息を詰まらせるようにして動揺を浮かべた。
クスリと、あたしは無機質な笑みを零す。
「仲良くしようね、ゆーだい。」
ゆーだいはバンドを組んでいるらしい。
放課後はまっすぐLIVE会場か音楽スタジオに行っているという。それだけでさらにゆーだいに好感が持てた。
楽しくゆーだいと喋っていたところに邪魔が入ったのは午後の授業が始まる五分前のこと。一人の男性教員が教室に顔をのぞかせた。
「イチ!おめぇ、来たんなら最初に俺んとこ来いっつってんだろーが。」
「……………ふぁ〜。」
「強制連行だこの野郎。」
襟首を掴まれて引っ張られる。ぐえっ苦しい。咄嗟にゆーだいを振り向いて苦笑している彼に手を振る。
ゆーだいは少し目を見開いたけど、また優しく笑って手を振りかえしてくれた。
そのまま引きずられるようにして、長身の男性教員に連れて行かれる。
まさに、強制連行。
「イチ、お前また男タラシこんだのかよ。善志良の奴にドヤされんぞ。」
「………よく分かんない。けど、善はことちゃんと違う。」
「俺と違って善志良は大人ってか?」
「………うぅん。理性的だってこと。」
そう言えば、ことちゃんは嫌そうに顔を顰めた。こういうところが、ことちゃんは感情的だと証明している。いい意味で分かり易い。
タラシ…とか変な言葉をことちゃんは使うから、そういうのは分かりにくい。
ことちゃんはこの学校の教師で、あたしのクラスの担任でもある。そして実はあたしの伯父でもあった。
この事は生徒は知らないし、多分教師も知らない。
それはあたしが市河 夜凪と本当の意味で知られていないことと同じで、けれどもことちゃんがあたしの伯父だという事実は本当だ。