「イチ、フードとって良いよ。」
善の言葉に、あたしは眉を潜めた。
あたしが嫌だと言えば善は強要はしないだろう。それどころか、善があたしの素顔を他人に晒すことに対して敏感だ。
常にフードを被り、顔を晒すことを拒むあたし。けれどもまあ、理由はただ単に周りの反応が面倒なだけ。
そして善は多分、彼の抱く罪悪感が理由なんだろう……。
あたしはフードに手を掛け、ゆっくりとそれを降ろした。ふわりと髪が揺れて、あたしを見つめる彼らが微かに息を呑んだのが伝わった。
「……ねぇ、美岬。こんなあたしを、キミは美しいと言えるの?」
美的感覚なんて人様々。ある人にとっては美しいものでも、別のある人にとっては醜く映るものだ。
だから、あたしは否定しない。
あたしに美しいと甘く囁く声も、
酷く醜いと罵る声も。
その全てを、あたしは無条件に受け入れた。受け入れる事に何の疑問も無かった。
市河 夜凪は、けれどもそれだけの女のだ。
「………イチ、おいで。」
何か言いたげな善に手を引かれ、あたしは善と隣り合ってソファーに座る。
目の前から向けられる視線を軽く流し、無表情で佇む。
「……その女が、善志良のか?」
一際派手な…女顔よりの美形な男は、あたしをチラリとだけ見てすぐに善に視線をやった。
聞かれた善は、その男に対して至極嫌そうに顔を歪める。それが珍しくて、あたしは女顔の美形男を観察する。
善は、他人に対して関心を示さない。だからというわけではないけれど、善が誰かを特別に嫌う事もない。
だから、珍しい。善はどうやら、この女顔の美形男が嫌いならしいから。
「……右から秀悟、莉央、純だ。協力者達だから、イチに何かすることはないけど……気を付けて。」
妖しく光る、本気な瞳をした善。
あたしが彼らを関わる事で、あたしを制してしまうかもしれない彼ら。即ち、善が最も嫌がること。