美岬は美岬で、フードの下のあたしの顔見たさは何処へやら、途端に一人で騒ぎ出す。煩いのかそうじゃないのか、よく分からない。
程なくして、美岬の運転する車はとある大きな倉庫…と言い難い小綺麗な建物の建つ場所に辿り着いた。暗闇の中、目を凝らさなくても周囲が明るい事により見える景色。
無数のバイクと改造車の点灯。そして集って何やら楽しそうにしている男の人達と、派手に着飾った女の人達もいる。
美岬が車を停めると、すぐに数人の男の人がやって来た。
「…………イチ、おいで。」
いつの間にか、車を降りてあたしの座る座席を開けた善が、比較的穏やかな表情であたしに手を差し伸べた。声音に隠せていない緊迫感は気になるものの、あたしは迷わずその手に自分のを重ねる。
ゆっくりと、車から降りた。
フードを深く被ったまま、目だけを覗かせると、一人の男の人と目が合った。
ギクっとしたように肩を鳴らした彼は、顔を朱に染めて視線をあたしから逸らした。
……?
「一斗、和磨。この子がシローの女だよ。」
美岬に声を掛けられた二人の男の子は、ハッとして善に頭を下げた。その他の男の子達は、何故か残念そうにあたし達の側から離れていった。
まるで、美岬に選抜された風な様子。
そして選抜されたのが、一斗と和磨という見ず知らずの男の子二人。何方も、あたしと同じくらいの年に見える。
爽やかそうな風貌の一斗と、無邪気そうな風貌の和磨。善は二人を一瞥して、あたしに視線を寄越した。
「…気に入らなければ、別の奴を探す。これからこの二人と居る事が多くなるだろうから、顔だけでも覚えておいて。」
曖昧な言葉。善の言い方では何が何だか分からないけど、何と無く理解出来た。
あたしはいつだって、善の言葉に反対を示さない。
何の疑問もなく頷いたあたしに、善もそれが分かっていたように微笑んだ。
そしてあたしの手を引いて、倉庫の中に入って行く。一斗、和磨、美岬も当然付いて来る。