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家に帰って、制服から着慣れた私服に着替える。服はフード付きのモノが多い。
時計を確認して、ソファーで寛いでいると段々と眠くなってきた。
あと五分で善が迎えに来なかったら寝る。そう決めてうつらうつしていた最中、残念ながらインターホンが鳴り響いた。
フードを深く被って、玄関を開ける。
立っていたのは、あたしを優しく迎えてくれる私服姿の過保護な男。
「寝てたのか?寝起きの顔してる。」
「……眠い。」
「学校お疲れ。行く先に甘いもん用意してある。」
前の言葉にちょっとだけテンションが上がる。大の甘党であるあたしに糖分は必須だから。それに、善はあたしの好みを理解している分、彼が用意するものには期待できる。
あたしは家の前に停められた黒塗りの車に善と近寄る。善の愛車は白。見覚えのない目の前の車は、あんまり詳しくないあたしでも高級そうだと分かる。
後部座席のドアを善に開けられて、促されるままに乗り込む。この辺が善への絶対的でいて盲目的な信頼の現れだと思う。
あたしに続いて、善も後部座席に乗り込んで来た。
「………あらま。その子がシローの?」
運転席から突然掛けられた声。
赤い淵の眼鏡に狐みたいな目をした、全体的に胡散臭そうな美形さん。
興味津々といった表情で見つめられて、あたしは彼を無表情に凝視する。彼の声音には敵意を感じない代わりに、僅かな動揺が滲んでいた。
この人とは初対面のはずだけど……。
「あぁ。……イチ、此奴は美岬。」
「初めましてー、噂のイチちゃん。」
無表情の下、あたしは混乱していた。どうやら、名前は知られるわけにはいかないらしい。
善が人前であたしの名前を隠す時、あたしをイチと呼ぶ。だからあたしも自己紹介なんてのはしない。イチ、のまま美岬に軽くお辞儀する。