「弾きたいと思っても、なかなか……」


「アマデウスでベヒシュタインは、強引に割り込まなきゃ演奏できない。来いよ」


詩月の手首をサッと掴み、勢いよく歩き出す。


「ミヒャエル……ちょっと……」


詩月はミヒャエルの背中越しに、声をかける。


ミヒャエルは、詩月の手を引いたまま大股で歩く。


「……ミヒャエル」


ミヒャエルの歩く速さに、詩月の息が上がる。


ミヒャエルが後ろを振り返る。


詩月は胸にギュッと、手を押し当てる。


ミヒャエルは詩月の顔を覗き込み、首を傾げる。


「ん……どうした?」


問いかけに応えようとする詩月の体が、ぐらりと揺れる。

崩れるように、ミヒャエルに寄りかかる。


咄嗟に、ミヒャエルが詩月の体を支える。

学生たちの凄まじい悲鳴が、詩月の耳に響く。


「……悪い、少し休めば……大丈夫だから」