「あ……」



詩月は学生を見上げ、声を漏らす。


「ミヒャエルだ。フランツ教授に師事してる」


「どうも」


素っ気なく返事をし、先へ進む詩月の肩に、ミヒャエルが手をかける。


「街頭で、度々演奏をしてるようだな。腕に自信はあるんだろう?」


声を張り上げ、意地悪そうな笑みを浮かべて訊ねる。


「弾きたい曲を、弾きたいように弾いているだけだ」

ミヒャエルは呆れたような顔をする。


「可笑しな奴……ピアノも弾けるんだよな。『アマデウス』のピアノを弾いてみないか?
第二次大戦前のベヒシュタインだ。
スタンウェイよりも、深みのある音を出すぞ」


ベヒシュタインはスタインウェイ、ベーゼンドルファーと並ぶ、世界3大ピアノメーカーに数えられるドイツのピアノ製造会社だ。


「まだ、弾いてないだろ!? ピアノのストラディバリウス」