______とある日の昼休み

今日も俺は慣れた足取りで図書室に向かっていた。

ここ最近読む本の数がかなり増えた気がする。

それはきっと俺の心が満たされていないからだろう。

ガラガラ

図書室は意外にも賑わっている。

本を読むつもりは無いが、交流の場としてここを利用している人も多いからだ。

騒々しい中、机に向かって勉強している人たちは怪訝な顔をしている。

テストが近いこともあり、いつもより少し人が多い気がする。

そんなことを考えながら、今日は俺の担当日ではないがカウンターに向かう。

涼しい扇風機の目の前で読書できるのが図書委員の特権なんだよね。

カウンターの前に来たとき、今日の担当であろう女子と目があった。

「こ、高坂!!!」

その女子、藤咲は大げさに音を立てて立ち上がった。

図書室にいた全員の視線が集まる。

「図書室ではお静かに。」

ピンと立てた人差し指を藤咲の唇に押し付ける。

さあさあ黙るんだ。

「ん!!??」

ばたばたと暴れる藤咲。

顔、真っ赤。

そんなに苦しいのかな?

仕方がないから離してあげる。

「なにすんのよ!」

キッと俺を睨む。

なんで俺睨まれてんだ?

「ごめんごめん。でも藤咲がうるさいから…。」

「だからってしていいことと悪いことがあるでしょうが!!」

「だからごめんって。」

俺が謝っても拗ねたようにそっぽ向く藤咲。

その横顔がなんだか懐かしい気がしてしまう。

なんだろう。

こいつ見てるともやもやする。

ちょっと優愛に似てるのかな。

いや、そんなことは無い。

藤咲は藤咲だ。

「高坂!!」

「あ、ごめんぼーっとしてた。」

気付ば藤咲が呆れた顔で俺を見つめていた。

「そういえば本借りにきたの?用があって来たんでしょ?」

「ああ、ちょっと本読みにきただけだよ。」

本来したかったことを思い出せば俺はカウンターの中にまわった。

「ちょっと!高坂今日担当じゃないでしょうが!なんで入って来てんの!」

「図書室ではお静かに。」

ぎゃーぎゃー騒ぐ藤咲に構わずに隣に座って本を開く。

あ、藤咲に寄りかかってた方が読みやすい。

藤咲は文句言ってるけど俺は無視して読書を楽しんだ。

...__キーンコーンカーンコーン

しばらく読書をしていると、昼休み終了の五分前を告げる予鈴がなった。

ぞろぞろと生徒が立ち上がる。

「あ、予鈴。ほら、図書室閉めるよ!」

藤咲はパソコンの電源を落とすと立ち上がった。

「ん。」

俺もゆっくり立ち上がって伸びをする。

「藤咲。」

「な、なに?」

「呼んでみただけ。」

「なにそれ!」

パシッ

藤咲が俺の胸を平手打ちした。

「そんなんじゃ痛くないよ?」

俺も軽く藤咲の頭をたたくと悔しそうに俺を睨む藤咲。

そんな表情にまた心が疼く。

わからない。

どうしてこんな気持ちになるんだろう。

なんて形容したらいいのかわからない

ふわついた気持ち。

_俺はこいつの事が、

いや。

それはない。

そうではないと思いたいだけなのかもしれない。

だって俺が好きなのは優愛なのだから。