「今日は慶介、すごかったね。」

母は嬉しそうに言う。久しぶりの母との晩ご飯だ。

「そんな事ないよ。たまたま学校の帰り際に変な男を近くで見かけただけだよ。」

「それでもすごいわ。人を助ける事なんてなかなか出来ないよ。しかも行方不明の子を探すなんて…。昔を思い出すな~。慶介が迷子になった時のこと。」

「俺が迷子になったの?」

「そう、小学校に入る前だから5、6歳の時かな。伊勢神宮に旅行に行った時、途中では
ぐれちゃって。お父さんも、親戚のみんなも一生懸命探したわ。」

「どこにいたの?」

「境内の隅っこでビービー泣いてたわ。くまのティーシャツ着てね。その時私決めたの。どんな事があってもあなたを守ろうって。今日来たお母さんも絶対にそう思ってたわ。」

慶介の頬に涙が流れた。

今まで人の優しさに触れた事がないと思っていたが、すぐにそばに優しさがあった事に気付いた。今まで素直になれなかった自分。

不器用だった自分。何にしても中途半端な自分。

そういった自分をありのままに受けて素直にありがとうと言える感じがした。


「母さん。ありがとう」

「あらら。ヘンな事言わないでよ。でも、ありがとね。」