猫という生き物は年を取るにつれて腎臓が悪くなる事があるという。症状に出るのは主に猫の体臭だ。酸っぱいような臭いがするらしい。

日曜日の午後、俺は久しぶりに真希菜の家に来ていた。

午前中に七海ちゃんの家(動物病院)で診察をし、今に至る。

診察の結果はこの世界のルールであり、残酷な結果であった。

「あまり長くありません。持って今週中でしょう」と告げられたのだ。
真希菜曰く、ミミちゃんは野良猫だったそうだ。それを真希菜の両親が拾って飼い始めたという事。
その後真希菜が産まれたのだ。

おそらく歳は20歳前後、人間で言えば100歳に近いらしい。

その診察結果を受けた真希菜は、口数が減り、目がどこか遠くを見ている気がした。

声にならないような声で鳴くミミちゃんに真希菜はそっと頭を撫でる。するとミミちゃんは気持ちよさそうに、それでいて何かを悟っているような表情だった。

夕方になって明日は学校なので帰る事にすると真希菜に伝えると「…うん」と、元気の無い声が返ってきた。

真希菜のお母さんに夕飯食べていきなと誘われたが真希菜を思って遠慮しておいた。

実は診察の後に七海ちゃんの家で大と真希菜と俺の4人で遊ぶつもりだったが、ミミちゃんの診察結果を聞いた真希菜がああだったので、俺は七海ちゃんと大に事情を伝え真希菜の家に行ったのだ。

俺はこんな時に、どんな言葉をかければいいか分からない。慰めた方がいいのか、そっとしておいた方がいいのか。

真希菜の家から俺の家までの距離は短い。

寄り道するような距離じゃないけど俺は日の沈んだ公園に訪れた。

こんな時に女の子1人慰めてやることが出来ないなんて…。

小さな公園の小さなブランコで物思いにふけっていると、
「やっぱり元気無いのか?」
と話しかけられた。
声の主は大だった。
「ああ、こんな時どんな言葉をかけたら良いのか俺には分からないんだ」
俺の応答に納得したような素振りを見せる大。