「…少しは楽になった?」

呼吸が戻ってきた頃、さすっていた手を止めて甲ちゃんが顔をのぞきこむ。

「うん…」

「絹は何が引っかかってるの?学校のこと?病気のこと?」

甲ちゃんはお医者さんとしても変わっていると思う。

普通ならこんな場合、酸素マスクつけられて“入院して下さいコース”じゃないかな?

少なくとも今までのセンセイ達はそうだったもの。

「…発作が起きたら、甲ちゃんや貴にも嫌われるんじゃないかなって怖くて」

いつ発作が起きるか分からない“爆弾所持犯”なんかと友達になる物好きなんてそうそういなかった。

例え仲良しの友人ができたとしても、退院して学校に行くとまた一人ぼっち…

貴や甲ちゃんにも“迷惑なお荷物”と思われているかもしれない。

だけど、二人にも嫌われてしまったら あたし…

「何で嫌うの?」

「だからぁ…」

出た、甲ちゃんの小ボケ。 天然だけにタチが悪い。

「それって嫌う理由になるかなー?寧ろ、発作が辛い時は手貸すし」

やっぱり、この人は変わっている。

あたしの何年もの悩みが一瞬でちっぽけな物に変わった。

「…3、2、1 仕事終わりー!」

チラチラ時計見てたのはそれだったのか…

「報告済ませて、カルテ整理して、病室に顔出して… 全部終わったら帰れるから待ってて」

終わりの割に仕事がまだ残ってる。