「きーぬーかぁ、すぐ戻って来るて言ったのに 寂しかったの?」

「…っ!?」

女の子を抱き上げる母親の顔を見て驚く。

「おりえ… 姉ちゃん」

バツが悪そうに俯く少年に、彼女は何事もなかったかのように声をかける。

「甲斐くん?! 帰国してたなら寄ってくれれば良かったのにぃ」

帰国する度、遊びに出かけていたことも 今ではものすごく遠い昔のことのように感じる。

彼女は自分の命と引き換えに少年を救った彼の妻なのだから。

「ねぇ、少しの間この子 見ててくれないかな?

会社にも電話したいの」

もう一度繰り返そう。

彼女の旦那は自分の命と引き換えに少年を救ったのだ。

それでも自分なんかを変わらず受け入れてくれる彼女の器の大きさに温かさを感じたが、

半ば強引に娘を押し付けるあたりは相変わらずで、思わず苦笑いする。

「いいよ、行って来て」