「Kai, Could you do me a favor…?」
(カイ、お願い 聞いてくれる…?)

彼女は荒い呼吸を必死に整えながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

早く安静させられる場所に移動しなくては、今度こそ発作が起きる前に対処しなくては。

頭では分かっていても少年も「年頃」なわけで、潤んだ瞳で見つめられると弱い。

「…We'll go back as soon as it finishes. Right?」
(…終わったら すぐ帰るからな)

そうは言うものの、きっと今頃 病院ではとんでもない騒ぎになっているに違いない。

結果的に逃亡の手助けをした自分にも間違いなく処罰が下されるだろう。

今度こそ“あの部屋”に監禁されるかもしれない。

日本に帰ることも許してはもらえないかもしれない。

自由を奪われることは嫌だけれど、今は彼女との貴重な時間を優先したくて、

頭と身体が全く相容れない状態だ。

少しぐったり気味の彼女を背負うと、教室を後にした。

しかし見るからにどっしりしたドレスを着ているのにも関わらず、

さほど彼女の重たさを感じないことに違和感を感じていた。

体力がないことは想定内だったが、まさかこんなにも病に蝕まれていたなんて…。

祖父よりも一回り小さい背中に、更に小さな彼女を背負いながら少年は決心をした。

医師の道を志すことを。

そして 自分が彼女を永遠に支えることを…