彼の生い立ちは世間一般では“可哀想”な分類に位置づけられるし、

彼自身も幼いながらに運命の歯車が噛み合わなさすぎると感じていた。

あの事故から数週間。彼は祖父が経営する病院に(極めて監禁に近い)軟禁を強いられていた。

祖父は言う、もう一人の私になれと。

跡取りになるはずだった父親は勘当され、その代わりに自分が老いた祖父の代わりに

ゆくゆくは病院を継ぐよう幼い頃から言われ続けてきた。

誰かに敷かれたレールは夢を見ることを奪い、支えを失った心は一層焦燥感に駆られた。

ここには優しい言葉を掛けてくれる存在なんて誰一人いない。

今日も目の前に積み上げられた参考書に苛立ちを感じていた。

やってられるかとそっとドアを開けて、部屋を出る。

が、病室が並ぶだけで興味を引くものなんて見当たらない。

慌ただしく走り回る医師や看護師、薬品の鼻につく匂い。

あの事故の記憶が鮮明に脳裏に焼付いている今、できればもう来たくない場所だった。

何をするわけでもなくただただ長い廊下を歩く。