少し長めの黒髪の男の子…

穏やかな笑顔を浮かべる名も知らぬ初恋の君…

身体が弱いあたしでも成長しているのに、彼の時間は不思議と止まったままだった。

貴は一瞬寂しそうな表情をしてみせる。

「爆弾抱えながらも必死に生きようと頑張っている女の子がいるから力になってやってくれって。

俺はただの影武者だけどな…」

“初めて会ったお兄ちゃん”は甲ちゃん。

そして気づかぬうちに弟にすり変わっていたとしたら…?

容姿を似せるためにバスケも始めて背を伸ばして、髪型も真似して…

誰かのためとは言え、普通はそこまでやれない。

あの時のお兄ちゃんの穏やかさは荒々しい口調に隠されてしまっているけれど、でも優しさは何一つ変わらない。

「貴… あのね」

「ちょっと待て!大切な言葉は取っておけよ?

お前はアホだけど、本物とイミテーションを見分けられるくらいの目はあるだろ?」

あたしは“あたしが選んだ道”を進んでいいの?

「…好きなんだろ?兄貴のこと」

前にも同じことを聞いたよね?

あの時は自分の気持ちに否定的なあたしだったけれど、今なら素直に正解を導き出せるよ。

「うん… 好き」

「早く良くなって、今度はしっかり捕まえとけよ?」

「… っ!」

返事と引き換えに涙が込み上げてくる。

乱暴な口調で嫌味言うなら、最後まで貫き通してよ!

いきなり優しくなるのは反則だよ…