「絹、どうした?」

院内であたしのことをそう呼ぶ唯一の人物。

「寝てなくて大丈夫?」

「…やだ。もう心まで病気になっちゃいそう」

病気と真正面で向き合って治したい、だけど病室で一人 大人しくはしていたくはない。

その矛盾の原因の一つはきっと甲ちゃん…

まさに“自暴自棄”という言葉がぴったりなコンディションだ。

「ん?何か嫌なことでもあった?」

たくさんの人を助けている大きな手が優しく頭を撫でる。

いっそのこと全てを話してスッキリしたい、それが甲ちゃんのことではなければ…。

久しぶりに立ちあがったからだろうか、さっきから目眩が激しい。

バランス感覚をなくした足元、視界も歪んで見える。

「絹…?」

無意識に前方に崩れそうになり、階段の手すりを掴もうと手を伸ばす。

しかし それは一瞬のことだった。