「気が付いたか?」

ベッドサイドの貴が声をかける。

「うん…」

いつから居てくれたんだろう。

普段は刺々しいくせに、たまに見せる優しさが安定剤の役目をしてくれる。

「勉強…?」

「あ~、ちょっとな…」

貴の手には『T大合格必勝マニュアル』と書かれた電話帳のように分厚い参考書。

頭がいいのは知っていたけれど

「ガリ勉…」

「うるせーよ」

初めは嫌だった貴の乱暴な口調が何だか懐かしく感じて思わず笑ってしまう。

腕を気にしながらも上体を起こそうとする。

でもやっぱり力が前みたいに、いや前よりも入らない。

「おい、大丈夫か?」

気がついた貴が支えてくれる。

「うん、すごい元気」

「と、言ってはみたものの実は絶不調 だろ?

お前、俺に見栄張って何の意味があるんだよ?バカか」

意約すると『体調悪いんだろ?俺には本当のことだけを話してくれ、心配になるから』といった所か。

…こうでもプラスに解釈しないと精神的にも辛いんです、病気の時は余計に。

「貴、あたしね… 手術受けることにしたの」

甲ちゃんからは五日後にって言われた。

不安や恐怖心がないと言ったら嘘になるけど、これで全てが終わる… なのに

「ふーん…」

ふーん…って 参考書から目離せよ、驚けよ!!

「兄貴から聞いた」

…でしょうね。