「恒兄のこと話した後だったから、てっきり『甲ちゃんがいなかったらパパは今頃…』とか言われると思ってた」

「何で?」

「何でって…」

「お医者さんが困っている人を助けるのは当たり前じゃない?」

「いや、そうなんですけど…」

あたしのとぼけた返答に甲ちゃんは腑に落ちない顔をする。

だけど、もう十分黒い十字架は背負ったよ…

呪縛から解放してあげなきゃ。

おじいさんの跡継ぎの件はさておき、パパと同じお医者さんていう職業を選ぶのも、

その娘と同居するのも彼には試練以外の何物でもないだろう。

それに甲ちゃん一人が罪悪感に苦しむなんてパパもきっと望んではいない。

「それにね… “自分の心”がそう言った気がするから」

運命を憎むんじゃなくて、幸せを見つけるべきだって そう警鐘を鳴らされた気がしたの。

「やっぱり絹は恒兄の娘だね…」

甲ちゃんは聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。

「お散歩は満足した?」

「歩いてないけどね…」

わざと皮肉を言ってみる。

「治ったら、いくらでも走り回らせてあげるよ」

「言ったね?約束だよ!」

いつの間にか彼にもいつもの笑顔が戻っていた。