甲ちゃんもママも出て行った病室にはあたし一人が取り残された。

十分すぎる時間に暇を持て余したが、眠る気分にはなれなかった。

だけど二日連続、しかも甲ちゃん付きの搬送ですっかり有名人になっていたあたしの病室には

女性看護師さん達が代わる代わる来て、その度イロイロ尋問されるけど

時間潰しにはちょうどよかった。

「昨日のドレスってウェディングドレス?」

「日向先生とはどういう関係なの?」

…かもしれない。そろそろ飽きてきたな。

「こらこら、絹香ちゃん疲れてるでしょ?」

そう言って入ってきたのは若い女医さん。

ハイエナみたいな群がりを一掃してくれる。

「ごめんね。ゆっくり休んで」

キレイな人…

ウェーブヘアーをさらっと一つでまとめているだけなのに

華やかに見えちゃうのはきっとその顔のせいだろう。

同じ女なのに、何でこうも違うのかなってみとれてしまう。

「? あ、やっぱり化粧濃いかな!?日向くんに嫌われちゃう~」

!!

「…冗談」

あたしの驚いた顔を見ると、いたずらっぽく笑って見せる彼女。

只者じゃない…!

「いいね、あんなステキな彼がいて」

「彼氏ではないんです」

だって あたしが好きな人は…。

病院なら手がかりがあるかなとも考えたけれど、名前すら分からない相手を、

しかも十年以上前に見舞い客として来た相手のことを誰に何と話せばいいと言うのだろう。