色とりどりのサンゴの間を魚達が行き交い、小さな水の泡が辺りに立ちのぼっていく…

海に包まれる感触が心地良く、懐かしい気持ちになる…

かつて、自分と海は一つだった気がする…

いつしか長い時の中で、人が生まれ…海から遠ざかり…

こんな所までやって来てしまった。

そしていつかまた、海に帰って行くのだろうか…?




「…深谷君、深谷君?大丈夫?」

すぐ近くから声がして、我に返った。

今までただよっていた大海の海は消え、目の前にあるのは赤い音楽室の扉だった。

防音室になっている部屋の扉は赤い皮が張られていて、他の教室とかなり違っていた。

「あ…」

横を向くと、同級生の吉高ゆず子さんが楽譜を胸に抱えて立っていた。

「練習していくの?最近ずっと見なかったよね?」

「うん…」

観音開きの扉を開くと、部屋の外に楽器の音がもれてきた。