校舎の間を通って用務員室に向かう途中、高田さんが質問してきた。

「今日は、何時から来ていたのですか？」

「…８時半ぐらいからです」

「え？そんなに早くからですか？チェロの練習ですか？」

「いいえ、感想文のバイト…いえ、書き直しをしてて…」

「そうでしたか、大変ですね…」

高田さん相手に、自分はつい口がすべっていた。

人を警戒させない人柄というものが、あるのだろうか…

「…ハルは今日、来ていますか？」

「さぁ…今日は朝から仕事で、用務員室を空けていたので分かりませんが…」

「そうですか…」

「おそらく来ていると思いますよ？」

高田さんはそう言うと、優しく微笑んだ。



用務員室に着くと、誰もいなかった。

「あれ？おかしいですね…」

高田さんは首を傾げて部屋を見ると、台所に入って行った。

自分はボンヤリ玄関に立っていると、後ろから肩を叩かれ…ふり向くと、戸川先生が白衣姿で立っていた。