「…で、一つ頼みがある」

「…何?」

見つめられ目をそらす事が出来ずに、微笑み返した。

一瞬、女史の瞳がゆれる…良く見ると、色素の薄い瞳が灰色に見える…

ニコリともしない、その瞳に見入っていると女史が口を開いた。

「…キスしてみてくれないか?」

「え…?」

いきなりですか?女史…しかもそんな淡々と…

こうゆ〜のをツンデレ…もしくは女王様と言うのだろうか…?

「ダメか…?」

「まさか…」

オレは断る訳もなく、右手が自然に伸びると女史の頬にふれていた。

女史は目をそらさずに、ゆっくりオレが近づくのを見ている…

視線に殺されそうな気がして苦笑すると、オレは目を閉じた。

かすかに唇がふれる…

重ねるだけのキスをしながら、オレは気になって目を開けると予想通り、女史は目を開けていた。

「…坂神さん…目、閉じない?」

「…そういうものか?」

「ムードの問題…確かめるんでしょう?」

少し離れて会話をする…

波の音が遠くから聞こえる気がして、時間が止まってしまったような錯覚を起こす…