その日の放課後…

「…顔、貸してもらおうか…?」

冷やりとしたアルトの声が、帰り支度をしていた自分にかけられた。

無表情の女史がオレを見下ろして、ケンカのお誘いのようなセリフを口にする…

ホームルームが終わり、掃除のない生徒は足早に下校していて、教室に残っている生徒はまばらだ。

「…了解…」

とても男女の間で交わされるとは思えぬ会話の後…

来生やら、中屋やら、ミッチーやら、残っていた生徒に見送られながら、オレは坂神女史の後について行った。




校舎を出て学校の外まで来る間、女史は一言もしゃべらずに黙々と歩き続けた。

横に並んで歩く勇気もなく、スレンダーな後ろ姿を見ながらついて行くと、不意に立ち止まった。

そこは…

「…ここでいいだろう」

ふり返った女史の周りには、大きな岩が立ち並んでいた。

見慣れたその場所は、背丈よりも高い岩が密集した海岸沿いの岩場で、見上げれば花咲学園の校舎が目に入った。

最近良く、この辺に縁があるなぁ…などと思いながら、つい昨日、深谷君と一緒に空を飛んだ事を思い出す…