「はぁ……」
二人で家を出ると、重いため息をつく。
「大丈夫ですよ、きっと上手くいきます」
すかさず仁菜が俺を励ます。そんな仁菜をじっと見て、
「本当かよ」
と尋ねた。そもそも付き合うってことをちゃんと理解しているのか疑問だ。
不意に、屈んでぷっくりした血色の良い唇に口づけてみる。
「……っ」
するとたちまち真っ赤になる仁菜の顔。
「付き合うってこういうことするんだけど、ちゃんと分かってる?」
「ふ、不意打ち禁止!」
「あーあ、これじゃ先が思いやられるなー」
と冗談交じりに言うと本気にしたのか、俺のシャツを引っ張って屈ませると、ぶつけるようなキスをしてきた。唇と唇が触れていたのはほんの一瞬で、すぐに離れて視線がぶつかる。
一言、笑って下手くそ、と言うとむっとして、これでも頑張ったのに、とブツブツ言う。
なんとなく可愛くなって、その顎を上げるとまた俺の方から口づけた。
身長差があってなかなか屈んでいるのが辛いから、それですんなり終わろうとしたのに、いつの間にか首の後ろに両手を回されている。
その手がかすかに震えていることに気付いて、仁菜の腰に手を回してその小さな体を抱きしめた。
「……あらあら。でも、まだ早いんじゃない?そういうのはお家に帰ってから、ね」
見送ろうと出てきたお母さんの登場に驚いて、咄嗟に仁菜から離れる。
車までの帰り道、小さな仁菜の手を握って帰った。
少しずつ、付き合ってるっぽいことをしていこうと思って。
だけど、正直、この先不安だらけ。
きっとまた喧嘩するだろうし、いつか仁菜に愛想がつくかもしれない。
横に並んで歩く彼女の顔を見る。
赤い頬、緊張感が握った手から伝わってくる。
いつになく静かな仁菜に、思わず口元がゆるむ。
「きっと、こういうのを愛しいっていうんだろうな」
「……っ」
俺の初めて見せた愛情表現に、感極まったのかボロボロ泣き始めた。
「なんで泣くんだよ」
「だ、て、嬉し……っ」
顔をくしゃくしゃにさせて泣く仁菜。繋いでる手を引っ張り距離を詰めると、前髪を上げて広いおでこにキスをした。なんとなくだけど、もしかしたら上手くやっていけるかも、なんて思ったりした。