確かに仁菜はアホだけど強い子だとは思っていた。
母親はそれをよく分かっているようで、自信満々にそう答えた。
そんな話を梅ちゃんとしていると、バタバタと階段を忙しく駆けおりてくる足音がする。
その足音が居間に到着すると、つい先日出て行った仁菜がいた。
「あれっ、彰人さん、どうしたんですか?」
「どうしたって、忘れ物」
そう言って目線をピンクのカゴにうつす。
「え?忘れ物じゃないですよ?」
「は?」
「もう帰るところでしたから」
帰るところ?どこに?まさか俺の家へ?
いやいや、
「だって泣いて、お家に帰るって」
「一度ねお母さんに預けてもらっていた荷物を取りに帰って来たかったんです。でもまさか彰人さんの方から迎えに来てくれるなんて」
「はぁ……」
訳が分からなくて思わず間抜けな声が出る。
あぁそうだ、この子は基本へこたれない子だ。
そう言って両手に持っている大きな紙袋を見ると、そこにはあのブサイクなぬいぐるみが顔を出していた。
その中身は、またくだらないのばっかり入っているのだろう。そしてこのブサイクまた増えんのか、これ以上俺の部屋の景観を損ねるなと言ってやりたいところだが、梅ちゃんの手前ここは口を噤んだ。
……本当に良いんだろうか。
相手はこの脳内万年お花畑の仁菜だぞ。
俺は、人生血迷ってるんじゃなかろうか。
自分で自分が心配になってきたところで、それを察したらしい梅ちゃん。俺が心変わりする前にと思ったのか、すかさず先手を打ってきた。
「にいちゃん、彰人さん、お試しだけどお付き合いしてくれるって」
それを聞いて耳が割れんばかりの大声で喜ぶ仁菜。
「本当っ!?」
そう聞き返され、げっそりとした声で返事をした。
「……あぁ」
「ゼクシィ買って帰らなきゃ」
すると、うっとりしたような声で大分先走ったことを言い始めた。
「式はいつにします?仁菜、ピンク色のドレスが着たいです」
そんな仁菜に、あらまぁ気が早いこと、なんて言いながら微笑む梅ちゃん。
俺の方は、まだまだ前途多難過ぎて、もう勘弁してくださいとしか言い返せなかった。