「いや、俺と付き合っても、あの本当に人を好きになれる自信ないんで。仁菜ちゃんに限らず。仁菜ちゃんは何よりも愛情を求めているようですから、俺にはそれに応えられない」
「でも、仁菜の働くお店や時には交番に迎えに来てくれたり、日焼け跡の体に薬塗ってくれたりしたんでしょう?十分愛情を感じるけど」
一体どこまで話しているのやら、ヒヤヒヤして冷や汗がたれそうだ。
「それは……」
「そんなに嫌?、うちのにいちゃん」
「仁菜ちゃんのことは凄く素直で邪気がなくて本当に良い子だと思っています。それに、一か月一緒に暮らしてきてあなたの言う通り多少なりとも情があります。だからこそ俺なんかと付き合わせたくないって言ってるんですよ」
正直、だんだん一緒にいるうちに手離せなくなってきてしまっているような気がする。いつも甘えてひっついてきて、その度に嫌がりながら引き離していたが、やっぱり可愛いもので時々微笑ましいというか愛しささえ感じるようになっているのだ。
色々考え込む俺に、何を思ったのか自分の胸の前で、ひらめいたとでも言うように両手を合わせてこう言った。
「ねぇ、お試しでお付き合い始めてみない?」
「は?」
「別に途中で解消してくれてもいいわ。あの子まだまだ若いし、ここでつまづいても次にいけるから」
「結構強引ですね」
「だって娘には、一番好きな人と一緒になってもらいたいもの。ね、そのかわり、お父さんのツケちゃらにしてあげるから」
「ツケ?はぁ、ここで払っていきますよ、いくらですか?」
あのクソオヤジ、心の中で毒づきながら財布を出すと、茶目っ気たっぷりに一本指を目の前に出された。
「10万円ですか?すいません今、手持ちないのでちょっと降ろしてきます」
「ふふふ、違うわよ。0、2つ足りないわ」
「は……1000万?」
そう言うと、ふふふ、付き合い長いからと微笑まれた。いやいやどんだけぼったくってんだよ。
「一度、お試しで付き合うだけでそれがチャラよ?良い条件じゃない?」
「俺のこと騙してませんよね?」
「まさかー、なんなら今ショージさんに電話してもらっても構わないわ」
「……娘さん傷つける結果になっても知りませんよ」
少し声のトーンを落として脅すようなことを言ったが、梅ちゃんの方は何も動じずニコニコ笑ったままこう答えた。
「構いませんよ、あの子は強い子ですから」