「すいません、娘さんがペットをうちに置いてって。あとなるべく早めにうちに残ってる荷物を引き取って頂きたい、
最後まで言い終わらないうちに、いつの間にか片腕を掴まれぐいぐい家の中へ連れ込まれている。
「ねぇ、夕ご飯はもう食べた?スイカは好き?お酒は飲めるの?」
「いや、車で来てるんで結構です」
「あらじゃ、泊まっていけばいいじゃない」
「明日も仕事があるので帰ります」
「じゃ、お酒は良いからご飯だけでも。ダメ?スイカ嫌いなの?」
謎にスイカを推してくるお母さん。この家族はフルーツが好きなのだろうか。
その後何度も断るがなかなかしつこい。このルックスに、甘ったるい声、そしてこのしつこさ、さぞかしスナックにはうちの父親を含め良い金づるがたくさんいるのだろう。
「どうぞ」
気付いたらまんまと居間に通され、スイカを出されていた。
「きゃっ」
おっちょこちょいなのか、悲鳴と同時にお盆から麦茶が飛んでくる。そして運悪く俺のズボンへと落下した。
「ごめんなさい大丈夫ですか?」
内心すぐに立ち去りたかったためゲっと思ったが、強引に作った笑顔で大丈夫ですと答えた。
隣の和室でつんつるてんのスエットに着替えさせられ、ズボンを乾かすと言って持ってかれる。
……まさか、これも作戦じゃないだろうな。
「この度は、にいちゃんが大変お世話になりました」
「いえいえ」
「で、うちの子は気に入らなかったのでしょうか?」
おっとりした顔に似合わず、最初から単刀直入に聞いてくる梅ちゃんに、ドギマギしながら答える。
「いや気に入らないとかじゃなくて……」
「じゃ、どうして」
「あの、娘さんが可愛いなら俺なんかと付き合わせない方が本当に良いですよ、可哀想です」
「娘が愛する人と一緒になれるんだもの、可哀想なんてことありますか」