そしてチューチュー鳴くハム子に、声をかける。
「可哀想に、飼い主に見放されて。おいお前は一体何食うんだよ」
そう聞きながら周りを見渡すと餌らしきものを見つけて、ケースの中の餌入れに入れてやった。
「これで良いか?」
そう言ってハム子が餌を食べるのを見守るも、なかなか餌に近づこうとしない。
「食わねぇのかよ、なんだよ餌を入れた人間が違うだけで食わなくなる位お前は繊細な生き物なのか?」
そう聞いたって、チューチュー鳴いているだけで返事は返ってこない。
「しょうがないな」
……一体、何をしているんだろう、俺は。
ピンク色のファンシーなハム子の家を持って。
もう最終手段で、仁菜の家を訪ねることになったのだ。
呑気に花火中だって言う仁菜は電話してもこんな調子だし、メールなんて見ないだろうということで、今さっき帰ったオヤジにメールして住所を聞きだした。
その後、何を勘違いしたのか何回か父親から電話がかかってきたが、聞かれることは分かっているので完全スルー。
その住所を車のナビで検索すると、1時間もかからないところだった。
車で家へ向かうと、近くのコインパーキングに停めてそこからは徒歩で仁菜の家へ向かう。
なかなか古い家が立ち並ぶ住宅街、そこから表札に楠原とある確実に昭和初期に建てられたような木造の家を見つけた。庭には微かに火薬のような匂いが残っている。
さっさとハム子を置いて帰ろうと思って家の古めかしい門をくぐると、縁側から若い女性に声をかけられた。
「あらっ、もしかしてショージさんの息子さん?」
「あ、はい」
「初めましてー、私仁菜の母の梅ちゃんですー」
仁菜との年齢差を考えて若くても30代後半っていったところなのだが、20代にしか見えない若く可愛い母親。
間延びするような声に出迎えられ、戸惑いながらもこれ以上巻き込まれたくなくて要件だけを話した。