再び静寂を取り戻した部屋。一人でワイン開けようかなと思っていた矢先、家のインターホンが鳴る、嫌な予感がしながらそれに出ると、そこには情けない顔をした父親が『彰人~』と、情けない声を出してそこに立っていた。
仕方なくドアを開け家に入れる。ソファーに座る父にお茶を出して、俺もその向かいに座った。
要件は十中八九、仁菜絡みだということは分かっている。
「いきなり何、海外行ってんじゃなかったのかよ」
「海外?あーそんな設定だったな」
「もう全部教えてくれよ、何か企んでたんだろう?」
「気付いてたと思うけど、あの子妹じゃないんだよ」
「うん」
今更、そんなことでは驚かない。顔も、性格もここまで違う兄妹なんていないだろう。
「行きつけのスナックの梅ちゃんっていう子の娘さんでね、ちなみに母親が失踪したっていうのと家の家賃を滞納して追い出されたっていう話は嘘だ」
「なんでそんな嘘までついてスナックの梅ちゃんの娘がうちに来たんだよ」
「いやぁ、お前は俺のせいで、こんな寂しい人間に育っちまったもんだから、人並の愛情豊かな人生を歩んで欲しいと思って」
「答えになってない」
「だから仁菜ちゃんという刺客を送り込んだわけだ」
「いやいや、年齢とか性格とか少しは考慮しろよ。俺が本当に仁菜に惚れるとでも思ったのか」
「それは誰を連れてきても一緒だろう?」
その言葉に言い返せず、うっと言葉に詰まる。まさしくその通り。
「だけどあの子は人情味溢れる、愛情豊かな子だから、凍てついた彰人の心も溶かしてくれるんじゃないかと思って。そして俺はああいう娘が欲しかった」
特に後半を力強く切実に訴える父親。
「あぁ、あのアホと気が合いそうだもんな。だけど初めて会った頃、あいつ、家の家賃滞納したって言って、お前のこと本当のお父さんで俺のことも生き別れの兄だって言ってたけど」
「うん」
「まさか、仁菜も騙してたのか」
「うん」
悪気もなくうんと言うオヤジに、少しイラっとする。
「うんじゃねぇよ」
「だってそうでもしないとお前のところに送り込めないだろう?でも仁菜ちゃんには途中でネタバレしたよ、彰人とはカップルになってもらわなくちゃいけなかったから。で、どうなの?仁菜ちゃん」
「もう出て行ったよ」
あっさりそう言うと、大きな声を出して驚いた。
「えぇっ!?仁菜ちゃんはお前のこと本当に好きだったのに」
「俺なんかじゃなくてさ、仁菜のこと可愛がってたならあいつの幸せちゃんと考えてやれよ。俺なんかと結婚して幸せになれると思うか?」